初のマラリア講談 ゼロマラリアから60年の節目

6月25日午後1時から石垣市民会館大ホールで、NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパン主催による「Zero mararia 2030 マラリアって何?」が開催された。

 このイベントは「狂言・講談から学ぶ私たちと蚊・マラリアの歴史」という副題があり、狂言と講談とミニシンポジュウムが披露されるもの。

 日本でマラリア患者がゼロになったのは1962年。今年は60年の節目にあることから、最後のマラリア患者が確認された石垣島でトーク&ライブイベントを開催するもの。

 冒頭、NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパンの神余隆博理事長が挨拶に立ち、日本でゼロマラリア達成から60年が経ち、その記念石碑の設置を契機にこのイベントが実施されることになったことが述べられていた。

 その後、女性の講談師、日向ひまわりさんによる講談「平清盛とロナルド・ロスのマラリアあれこれ」が披露された。これは、初のマラリア講談となるもので、マラリアに関する情報満載の楽しめる舞台となている。

 まずひまわりさんは、マラリアが現代においてアルテミシニンなる薬で、アフリカの死亡率を半分にしているが、85か国で蔓延しており、2021年のデータでは2億4100万人に感染し、62万7000人が死亡していると述べ、その8割が5歳未満の子どもで1分に一人、亡くなっている現状を述べていた。

 講談は、平安時代に隆盛を誇った平清盛の死因「瘧(おこり)」が、マラリアであったことで、まず登場するのが平清盛。あの世で清盛が800年の眠りから覚め、マラリアの研究でノーベル賞を受賞したロナルド・ロス氏との問答を通じて、マラリアについて清盛が詳しく知っていくというもの。

BC8000年からBC1万年からあった感染症で、トルコで発掘された人骨からマラリア原虫のDNAが発見されているなど、太古から悩まされてきたことや、語源がイタリア語で、森で悪い空気を吸って罹患するとされていたために、悪い空気(マル・アリタ)から来ているなど、ざっくりとマラリアの歴史や日本での罹患状況などが語られていた。

 また日本についても、大正時代には北海道でも開拓移民の大勢が罹患。第2次大戦の終戦時では、復員者が戦地で罹患し、国内で感染を広めた話とともに、日本軍の命令で起こった八重山戦争マラリアにも詳しく触れ、マラリア有病地への強制疎開でマラリアに罹患者した住民は1万6000人を越え、死者はその2割の約3600人と、悲惨さを述べていた。

 講談の後は、「歴史から学ぶ感染症対策」のテーマでミニトークが、八重山戦争マラリア遺族会の田本徹氏、第8回ゼロマラリア賞受賞の琉大助教授の斎藤美加氏、マラリア・ノー・モア・ジャパン理事で国立国際医療研究センター研究所熱帯医学・マラリア研究部長の狩野繁之氏の3氏の間で行われ、司会は内原早紀子NHKキャスターが担った。

 田本さんは、八重山戦争マラリアの実体験を語ってもらったほか、伊野田での石碑建立に取り組む斎藤さんから、建立のいきさつや、今年8月8日に建立を披露できることも発表されていた。
 この後、日本の伝統芸能「狂言」の一演目「蚊相撲」が披露されていた。

 人にマラリアを感染させる蚊が、感染を広げる最大の難敵。その蚊にまつわる伝統芸能を披露して、石垣島では披露される機会の少ない狂言が舞台で展開。狂言の独特の言い回しは、馴れた人には楽しいものとなっていた模様。登場人物の大名と太郎冠者と蚊の会話は、伝統芸能だけあって室町時代そのままのやりとりとあって、不思議な舞台の体験となっていた。(八重山の祭りで披露されるキョンギン(狂言)も方言でやりとりすることで、わかりづらいことから、そこが共通しているのは、面白い。)

 なお、市民会館大ホールの一階ロビーでは、マラリアに関する展示物が披露され、潮平正道氏の「絵が語る八重山の戦争」(南山舎発行)の作品も展示されていた。

 このほか、マラリアの蔓延状況を調査した記録や、消毒のための家々へ準備の方法など、八重山保健所が取り組んだ様々な資料が披露されていた。

 この日は、退職した元保健所職員らがボランティアに駆け付けて、サポートもしており、来場者も120人以上が参集して、イベントに参加していた。

 マラリアに関するイベントは、これまで行われたことはなく、17世紀以降からマラリア有病地帯が広がっていた八重山が、1962年にようやくマラリアでの根絶を実現。今ある観光などの繁栄は、これがなければあり得ない話で、マラリアを媒介する蚊が今も生息する八重山であることを再確認するいい機会となるイベントでもあった。

 さて、コロナ禍前のインバウンド伸び始めた2019年、24万人の外国人が八重山に来ていた。
 もし万一マラリア罹患者が来島して、ハマダラカによってマラリア原虫が罹患者から移されて、広まったりすれば、引き返せない事態が予測される。

 外国人も、日本国内を移動する場合には、どこから罹患者が島に入るかは、予想ができない。まず、マラリア罹患者も来島があり得ることと、その備えを、忘れないことは重要といえる。ただ、現保健所がそこまで考えているかは、市民へはまったく聞こえてこない。

 世界のマラリア撲滅が、沖縄県が声を大にする立場にあるはずなのは、八重山にマラリア原虫が入れば、沖縄本島の観光にも影響を及ぼさないわけがないこと。

 この催しは、いろんなことを示唆するイベントになっていたことは間違いないようだ。


 (流杉一行)
 

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