川平成雄「台湾引き揚げの軌跡」 地元受賞初 第8回やいま文化大賞

 第8回南山舎やいま文化大賞の受賞発表の記者会見が3月7日午後3時半から大浜信泉記念館で行われた。

 選考委員会の波照間永吉委員長から選考の過程が紹介された後、与那国出身の川平成雄氏の「台湾引き揚げの軌跡」の受賞が発表された。

 会見には、波照間永吉委員長のほかに、南山舎代表の上江洲正和氏と島村賢正選考委員が出席。

  応募総数3作品(郡内1作品、郡外2作品)で、今年2月10日に大浜信泉記念館研修室で選考委員会が開かれ、波照間永吉委員長(名桜大学教授)、砂川哲雄委員(詩人)、大田静男委員(地域史研究家)、島村賢正委員(アンパルの自然を守る会共同代表)、上江洲儀正委員(南山舎会長)の5人で審査が行われ、受賞が決まった。

 川平成雄氏の「台湾引き揚げの軌跡」は、戦後の台湾引き揚げの実相を明らかにしようとする論文で、故牧野清氏の資料集の中から「台湾引き揚げ」関係文書を見いだし、台湾引き揚げが如何にして行われたかを示したもの。終戦直後に台湾から八重山へ引き揚げる人々に起こったこれまで明らかになっていなかった歴史的事象が、氏の論文で明らかとなった。

 波照間永吉委員長は「本著作は台湾引き揚げ実現の実態とその背景を明らかにするだけでなく、引き揚げ者の引き揚げ後の生活問題、そして終戦直後の八重山の状況まであぶりだすもの」と、優秀なドキュメントであることを紹介。戦後の八重山史の一頁を明らかにしようとする意欲的な作品と高く評価した。

 川平成雄氏は、1949年与那国生まれの70歳。1986年に法政大学大学院人文科学研究科日本史学専攻博士課程修了。
 1989年から2015年まで琉球大学法文学部で日本経済史、社会経済史を担当。
 2005年には沖縄社会経済史を開講して担当。教養課程では「経済の歴史」、大学院では「沖縄社会経済史研究」を担当。
 定年退官後は、沖縄社会経済史研究室を自宅で主宰している。

 著書には「沖縄・1930年代前後の研究」(藤原書店・2004年)、「沖縄 空白の一年 1945-1946」(吉川弘文館・2011年)、「沖縄 占領下を生き抜く 軍用地・通貨・毒ガス」(吉川弘文館・2012年)、「沖縄返還と通貨パニック」(吉川弘文館・2015年)がある。

 川平氏はコメントを文書で発表。

「探求をとおして、知らないことを知る。これに勝る喜びはありません。これまでの探求の喜びに加え、新たな喜びが加わりました。それは石垣市立図書館所蔵『牧野清コレクション』の中の台湾からの第3次引き揚げに関する『台湾帰還関係雑書 第一綴 第二綴』(八重山総隊本部)という資料を読み解くことの中から得た『台湾引き揚げの軌跡』です。」
と述べ、
「この資料に出合ったことは幸福でした。『牧野清コレクション』の中にはいろんな資料が詰まっています。テーマを絞って読み解けば、八重山の『戦後』史に新たな光を与えることができるでしょう」
と呼びかけて、
「私にとっての原点は、石垣島であるということを再認識させた受賞でした」
とコメントしていた。

 選考委員会では、作品の著者名は知らされず、誰が書いたかはわからない形で委員に作品が手渡され、選考される。
 選考に漏れた作品がどこからの応募かについて記者から質問があっても、委員等にはわからないことがこの日告げられていた。

 今回、期せず八重山出身者初の受賞者を出したことに波照間委員長は
「いわれて見れば、島生まれ島育ちの人の受賞は、記念すべき受賞です。島を知る人だけに伝わるものが違う。審査する側には一気に読ませるものがありました。私自身、(この作品に関しては)「読ませる」作品であることを掲げました。生活経験、過去の記憶、伝え聞いた話が、作品に入っていて、(受賞は)島の人間でしか思い及ばないものがあった結果ではないかと思う。」
と、8回目にして八重山出身者の受賞がなったコメントを熱く述べていた。

 なお、受賞式および記念講演が、4月に予定されており、やいま7月号から受賞作品が連載される。
 
 また、この日、2020年度の第9回南山舎やいま文化大賞も募集がスタート。
 募集内容は、日本語で表記された八重山をテーマにした評論、エッセイ、ノンフィクション、紀行文、論文(自然科学、人文科学、社会科学)等の未発表著作物(論文・作品)とする。(文字数3万2000字から6万字)(中高生部門は2万字から)

 応募消印は2020年11月10日。応募資格は不問。

 賞は、一般部門に南山舎やいま文化大賞(賞金10万円)、優秀賞(賞金5万円)。中高生部門にも、南山舎やいま文化大賞(賞金5万円)がある。特に、中高生部門の応募がないまま2年が経ち、今回は広く呼び掛けたいと委員長は述べていた。

(流杉一行)



この記事をシェアする