ウスハナフエダイと命名 魚種「ハナフエダイ」(フカヤービタロー)の別種 

 沖縄での呼び名「フカヤービタロー」で知られるハナフエダイが、これまで1種とされたてきた。

 今回、国立研究開発法人水産研究教育機構西海区水産研究所亜熱帯研究センターの下瀬環氏が、八重山漁協で水揚げされる魚を観察する中で、様子の違うハナフエダイを発見。遺伝子を調べ、形態・生態の違いを突き止めて論文を発表。見つかった種に「ウスハナフエダイ」の和名が付けられた。(沖縄タイムス2020年2月12日付け)


(写真の上がウスハナフエダイ。下がハナフエダイ。)

 フカヤービタローと聞いて、どんな魚かわかる人は釣り人を除いて一般的に少ない。ましてや和名の「ハナフエダイ」と聞いてピンとくる人はなお限られる。

 そんな魚種だが県漁連のポスター「おきなわの魚292種」にしっかり掲載され、同亜熱帯研究センター発行の「八重山で食べたい魚30選」にも載っている。あかまち狙いで捕れる、とてもきれいでおいしい小型の魚とあり、識者には有名ともいえる。

 方言名に「フカヤー」とあるのは、沖合水深250mから350mの深場に生息するためにこの名がある。ビタローの名は、リーフ内の浅いところにいる小型のフエダイ全般につけられる。

 沖縄に限らず、魚の名前が地方名と標準和名の2種が存在する。だから魚の名前は、昔からややこしい。

 日本各地で魚の名前はバラバラだった時代が長いのだ。地方名の魚に和名といういわば標準語の魚の名前をつけたのが田中茂穂氏(物故者)。

 彼は日本中の魚を調べてアメリカ人といっしょに書籍を出版。魚類学の父と称されるのはそのためだ。この時のアメリカ人のひとりがシュナイダー氏。そのシュナイダー氏が那覇で揚がった多数の魚に学名をつけている。

 その一種に戦後、無効となった魚がある。今回、下瀬氏が研究した魚がそれで、学名がシュナイダー氏によって登録済みだったことが判明。新種とはならなかったが、「ウスハナフエダイ」の和名が下瀬氏により付けられたのだった。

 沖縄で水揚げされるハナフエダイは、ほとんどが従来のもの。ウスハナフエダイは極めて少ないという。全体に桃色の体で背に黄色の斑が4つあり、横に青白い線が数本並ぶ派手なところは共通している。

 この2種が2019年12月16日の八重山漁協のセリで見られた。同じトロ箱に並んで入っていた。漁協職員が同じと判断して入れたのだ。多分、捕獲したタイミングは、違っていたはず。

 350mの深場で、ウスハナフエダイは砂泥質に生息し、ハナフエダイは岩場で暮らすという。2種はどう違うか。

 砂泥色に擬態するため、色が薄い姿の方が天敵回避や捕食時に有利となったとすれば、それなり面白い。真っ暗な深海で微細ながら形態を変えたウスハナフエダイ。色を自ら薄くしたのか、たまたま薄くなったものが生き残ったのか。

 ハナフエダイとウスハナフエダイで、味が違うのかどうかは、わからないが、いずれは煮つけにして食べ比べてみたいものだ。

(流杉一行)

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