4月11日午前10時頃から川平の海岸で石垣市織物事業協同組合の八重山上布講習会による最終工程の海晒しが行われ、3名の受講生と2名の講師および平良佳子組合理事長らが、海岸で受講生の製作した6巻きの着尺の八重山上布を海に晒していた。
同組合では毎年織物講習会を実施しており、なかでも八重山上布の捺染の織物は、昔ながらの大自然の海水に4時間、浸し続ける海晒しが必須で、同組合では捺染の織物の講習があったときだけ実施されるもの。
今回、3名の受講生が苧麻の刈り取りから制作した織物6巻き(8mのもの3巻きと12.5mのもの3巻き)を海に晒した。
今回の海晒しは、平成24年に行われて以来の7年ぶりの実施となる。というのも、捺染の八重山上布の講習の際に、海晒しがおこなわれるためで、ククリ染めの八重山上布ではよほど濃い柄を出さない限り海晒しはおこなわれず、講習会での海晒しはなかなか見られない光景と言える。
この日、平良理事長が見守る中、海水と石灰水を混ぜた上澄みの水で、着尺を浸して発色を促進。そのあと、発色を止め、定着させるため着尺を海に晒していた。
最初に実施した海岸の波が強いため、場所を変更しての実施となったが、移動先の波が静かで、じっくりと織物を海に晒すことができ、取り組んだ受講生も仕上がりが待ち遠しい様子。熱心に布の様子を観察しながら、色の変化に注視していた。
受講生のひとり嵩原綾子(39)さんは、
「八重山上布は大自然の恵みや自然の力を得てできることを実感しました。全工程の講習を終え、八重山上布はこんなにも神経をつかって仕上げるのだとわかり、講師の先生はすごいなと思いました」と述べていた。
もう一人の受講生の足立弓子さん(60代)は横浜出身。移住して14年になる。
「八重山上布の魅力に惹かれ、自分で紡いだ糸で織ってみたいという強い思いがあったので、講習に参加しました。全工程を終えて、これからのことを思うと緊張感があります。学んだ一つ一つの工程が大切な作業だとわかりました」と、自身の手による八重山上布の制作に、時間と労力をかける覚悟が見えた。
今回の捺染の八重山上布講習会は、次回は3、4年後になる模様で、こうした光景が公開で見られるのも、ずっと後になるということ。
目下、定員が3名という受講生の少なさは、八重山上布で使う繊細な糸が全体的に少ないためで、講習のために使われる糸がある分、正規の八重山上布の製品へ回らない厳しい状況。
上布の緯糸は、麻の種類の苧麻と呼ばれる植物でできており、かつて百数十人いたというブー績(う)みが、今では35人ほどに減り、昔の人が2か月に一反分の400~500グラムできたものが、今は100グラムと、ペースがゆっくりとなっており、入手が厳しくなっている。
石垣市は以前からこれを重く見ており、毎年1月から3月にブー績み講習会の事業を後押ししている。ブーの作り手の育成に力を入れるが、講習を受けても続けることが難しいという。
高齢者の間でゲートボールに通う人が増えていて、いかんともしがたいが、将来的にブー績みに戻ることに期待していると、いう。
なお最近の講習会を修了した受講生は、ブー績み講習会にも並行して参加しており、苧麻の刈り取りからブー績み、染めから織り、そして捺染上布では海晒しまで、習得している。
そこは、昔の分業の時代とは、違ってきているとのこと。
八重山の織物の緯糸不足は、厳しい状況が今も続いている。
が、八重山上布の魅力に惹かれる人々の手で、今も改善の方向へ向け、わずかながらも地道に打開策が練られている。
(流杉一行)