山口晴幸氏 南山舎やいま文化大賞受賞

 2月26日、午後1時半より大浜信泉記念館で第7回南山舎やいま文化大賞の受賞者発表が行われ、山口晴幸氏の「<八重山美ら海の叫び>海洋越境廃棄物の脅威~忍び寄るマイクロプラスチック汚染~」に大賞が決まった。

 この日、南山舎代表の上江洲儀正氏と、沖縄県立芸術大学名誉教授で同大賞選考委員会の委員長の波照間永吉氏が会見に出席して、山口氏に大賞がおくられることを発表。

 上江洲氏は、今回の応募は郡内1作品、郡外2作品の計3作品で、今年2月3日に選考委員会が大浜信泉記念館研修室で開かれて、受賞作が決定したと、経緯を紹介。
 今後、4月に授賞式を予定しており、今年月刊やいま7月号に受賞作を連載スタートする予定とのこと。

 これまで同大賞は1回から3回は受賞者があったものの、4回、5回、6回と3年間受賞者がなく、今回は4年ぶりの受賞者の発表となった。

 波照間氏は、黒潮が最初に日本を洗う最前線の場所が八重山諸島であり、遥か南のアジア各国や、北風に乗って極東アジアの国々から運ばれてくる海洋越境廃棄物の推移を、20年のスパンで調査し論考をすすめ、多くの記録写真から実情を報告。

 将来的には、マイクロプラスチックが自然・生態系および、食物連鎖の中で人への影響を懸念。

 写真の衝撃に波照間氏は海洋越境廃棄物への対策の急務を個人的にも強く述べていた。

 作品は写真だけで63ページあり、本文で57ページ(1ページ1200字)の圧巻の大作となっている。

 今回、中高生部門が応募者ゼロとなったため、受賞者はなしとなった。

 なお、この日、第8回南山舎やいま文化大賞募集もスタートとなり、締め切りは11月10日で、前回と同じく、一般部門は400字詰め原稿用紙80枚から150枚の文字数。中高生部門は400字詰め原稿用紙50枚から150枚とする。

(流杉一行)

 
 
以下は、著者の略歴と受賞歴および受賞の言葉。加えて、受賞作品の講評。


   
<山口 晴幸(Yamaguchi Hareyuki)氏の略歴>

・1948年10月青森市に生まれる
・1973年3月に新潟大学工学部土木工学科卒業
・1975年3月新潟大学大学院工学研究科土木工学専攻
修士課程修了
・1978年3月北海道大学大学院工学研究科土木工学専攻
博士課程単位取得満期退学
・1978年4月北海道大学工学部助手(土木工学科勤務)
・1980年4月防衛大学校講師(土木工学教室勤務)
・1981年3月北海道大学より工学博士号の学位を取得
・1983年4月防衛大学校助教授(土木工学教室勤務)
・1994年10月防衛大学校教授(建設環境工学科勤務)
・2014年3月防衛大学校定年退官
・2014年8月防衛大学校名誉教授の称号を授与される
 現在に至る

<主な受賞歴>
・1995年11月財団法人鎌倉風致保存会より「古都鎌倉の水と土」で優秀論文賞を受賞

・2008年4月文部科学省より「深刻化する海岸漂着ゴミ問題解決への普及啓発」で平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)を受賞

・2010年8月全国文芸同人会「コスモス文学の会」より「王朝風土を潤す琉球古水」でシニア文学新人賞(ノンフィクション部門)に選出

・2010年8月土木学会地球環境委員会より「沖縄の漂着ゴミ汚染と有害化学物質の同定に関する研究」で地球環境優秀講演賞を受賞

<単著書>
・ひげ先生の書簡『漂着ゴミ~海岸線の今を追って』(株)文芸社、2002年6月

<その他>
・分担執筆著書(主に学会関係),学術・研究論文、論説、総説、講演、特別講義、一般市民向け公開展示会、マスメディア等への社会的情報公表など多数

<受賞のことば>
 私は元々土木工学を学び土質力学・地盤工学を専門としておりますが、平成年度に入った頃から地盤の環境分野を新たに開拓し、自然環境・環境地盤工学分野を専門として、特に浜・森・流域・水辺(水・土)での広域環境汚染や自然環境保全の分野に興味を抱き、研究室・実験室を飛び出した広域調査とフィールドワークを中心に活動を行ってきました。

 自然の魅力を科学的に発信し、自然環境の保全対策に役立てるために、世界遺産登録されている屋久島、白神山地、知床半島、富士山を始め、原始やまねこの棲息する沖縄県西表島や長崎県対馬、巨木の島東京都御蔵島などの野趣豊かな地域を度々訪れ、自然万物を育む水・土環境調査を継続してきました。

 1997年から開始した漂着廃棄物調査では、琉球列島・奄美諸島などの南西諸島を始め、礼文・利尻・佐渡・舳倉や隠岐・壱岐・対馬の日本海近海の離島、伊豆諸島や小笠原諸島の硫黄島・南鳥島など、全国延べ3000か所以上の海岸を断続的に廻り、調査データの蓄積を図ってきました。

 琉球列島には毎年一度は訪島し、退官した今も引き続き調査を継続してきました。

 今回の受賞は、これまでの20年間に亘る八重山諸島を中心とした沖縄島嶼での深刻化する漂着廃棄物の実態を定量的に明らかにし、軽減・抑制対策や難題などについて検討・提言し、実践的な方策や具体的な活動などについて取りまとめたものです。

 根っからの理系人である私にとっては、殆ど縁遠い「文化」、「文学」、「藝術」などの分野には知的芳香と憧れを抱かされます。

 この度、選出されたことについて大変嬉しく思うとともに、関係者の方々に心よりお礼申し上げます。

 八重山諸島などの美ら島の海岸では、近隣アジア諸国からの外来廃プラスチック等の越境廃棄物が想像を絶する途轍もない量で漂着を繰り返しており、希少な動植物生態系を育む自然万物にとって大きなダメージ・脅威となっております。

 今、世界の目が注がれており、回収・除去が絶望的で、海生生物の摂食リスクが極めて高まる微小プラ「マイクロプラスチック」の実態も深刻度を増しております。

 今回の受賞は、今後も調査旅を続けようとする一人の老学徒に、決意と大きな励みを与えて頂きました。改めてお礼申し上げます。

第7回「南山舎やいま文化大賞」受賞作品
著/山口晴幸
「<八重山美ら海の叫び>海洋越境廃棄物の脅威~忍び寄るマイクロプラスチック汚染~」の内容と講評

【内容】
 沖縄県の海洋廃棄物の調査に長年従事してきた著者の調査報告と提言の書といえる。目次に明らかなように、沖縄・宮古・八重山の海岸に漂着する「海洋越境廃棄物」の現状と、それのおよぼす自然や生態系、そして人間の健康生活への影響などを採り上げ、その対策の必要性を説いている。まさに沖縄~八重山にいたる自然環境破壊に対する警告の書である。

【講評】
 沖縄~八重山の海岸に漂着する「海洋越境廃棄物」の現状がどのようなものか、そしてそのおよぼす影響の問題などを的確に掬いだし、これに対する対策の急務であることを説いていて、説得力がある。
 約20年に及ぶ実地調査により明らかにされた事実は、我々をとりまく環境が如何に破壊され、汚染された状況にあるかを知らせてくれる。本稿が提起する問題は、学問上のことではない。我々の住む地域の問題と密接した、まさに社会的な問題である。学問が社会と密接な関係を保ち、社会を良くするために力あるものであることを改めて知らせてくれる。
「海洋越境廃棄物」による環境汚染・破壊は沖縄が日本国内でも群を抜いているが、八重山はその中でも異常に高い数値を示している。宮古も同じである。大陸に近く、黒潮の洗う海域に存在しているという地理的事情によるものとはいえ、これを放置して置くわけにはいかない。「海洋越境廃棄物」の問題はこの地域、いや、地球上にすむすべての動物・植物の生育・健康に大きく関わる問題である。このことを著者は、自らの調査によって得られたデータで、分かりやすく示してくれている。私たちの八重山はこのように汚されているのである。漂着廃棄物を撤去しなければ、マイクロプラスチック化して、これが食物連鎖のなかで、新たで深刻な健康問題を引き起こす可能性について述べている。
 その解決策として著者は、海岸清掃がもっとも手っ取り早い対策だという。そして、現状ではそれは、ボランティアによる活動にまつところが大きいと言っている。確かにそのような部分があるだろう。しかし、これは、ボランティア活動にゆだねられる問題ではない。国家が力を尽くし、国土を健全な状態に保つべきである。「海洋越境廃棄物」の流出源であるアジア諸国との積極的で粘り強い交渉が必要である。むしろ、このことを強調すべきであろう。著者も論考の末尾でこれを説いているが、より強いトーンで主張して欲しいことである。
 八重山、いや沖縄、そして地球上の海とそこで命を育んでいる全ての生き物、人間達の為にも全人類で取り組むべき課題である。地域の問題はグローバルな問題と直結する。このことを教える著作である。

(南山舎添付資料より)
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