7月13日午後1時から八重山合同庁舎2階大会議室で新石垣空港事後調査委員会がおこなわれ、太田英利(陸上動物学)、大森保(地球化学)、香村眞徳(海藻生態学)、黒田登美雄(水理地質学)、酒井一彦(サンゴ礁生態学)、鈴木倫太郎(NGO)、立石庸一(植物生態地理学)、小磯雅彦(魚類生態学)、前田喜四雄(哺乳動物学)、嵩原建二(鳥類生態学)の各専門分野の有識者でなる委員らが、平成29年度モニタリング調査結果と平成30年度モニタリング調査計画を審議した。(敬称略)
事務局が用意した平成29年度モニタリング調査結果は、陸上植物、陸上動物、河川水生生物、陸域生態系(ハナサキガエル類)、陸域生態系(小型コウモリ類)、地下水、海域生物、海域生態系に区分して説明され、空港建設前の環境調査と建設後の環境調査を比較しながら、変化の有無を軸に報告されていた。
陸上植物では、ガランピネムチャが、供用開始後に移植され先であるビオトープから消失している結果が報告されたが、周辺での野生株の調査をしたところ、カラ岳西側斜面およびカラ岳東側農道脇などで分布が確認されたことが報告されていた。
このほか重要な種として移植された植物の生育状況も、説明され、ミヤコジマハナワラビ、ハンゲショウ、トサカメオトラン、テツオサギソウの移植先の生存率も説明されていた。
陸上動物では、ヤエヤマコキクガシラコウモリ、カグラコウモリなどの哺乳類、カンムリワシなどの鳥類、ヤエヤマセマルハコガメなどの爬虫類、オオハナサキガエルなどの両生類、ヤエヤマノコギリクワガタなどの昆虫類、オカヤドカリ類、ヤエヤマトタテグモなどのクモ類、洞窟性生物の調査が報告されていた。
春季と秋季に分け、事業実施区域と航空障害灯建設地でおこなわれた調査が報告されていた。
これらの調査に関して、事務局は「経年変動の範囲内」というフレーズで、大きな問題となっていないことを示していた。
委員からは、注意事項を指摘するなどして、調査が打ち切られたタイミングを惜しむ指摘もありつつも、モニタリングにより空港開港後の環境調査で、大きな環境かく乱に至っていないことを認めてもよい内容の調査報告とみているようであった。
平成30年度のモニタリング調査計画もこの日説明され、陸上植物、河川水生生物、陸域生態系(ハナサキガエル)、陸域生態系(小型コウモリ)、地下水が調査される。
それら調査時期・方法などが発表されていた。
さて、このモニタリング調査は、「新石垣空港整備事業に係る環境影響評価書」に記載されている「事後調査および環境監視」のことで、新空港建設工事中から供用開始した後の、この事業によっておこる環境影響の程度を把握。また環境保全措置および環境保全配慮の効果を把握と、新空港建設事業の下で起こっている環境実態を把握して環境影響評価を見て、影響の回避・低減の措置を図り、調査結果のデータを蓄積して、事例を残すことで、有効活用することを目的としている。
30年以上の年月をかけて、新空港が建設された背景にあるもの。
それは環境保全への徹底した配慮を要求した地元の熱意であり、それを受け、保全への怠らない姿勢を県当局がとったこと。
工事現場周辺の生物への配慮があり、慎重に建設されている事態が、この細かな調査の中に現れている。
今、新空港は完成し供用開始して5年が経つが、その精神の残像は、この調査に現れている。
1979年5月、白保のサンゴ礁の海を埋め立てて建設する新石垣空港建設計画から、1989年4月のカラ岳東への建設計画変更。
そして1998年4月に農地をつぶして丘の上に建てる宮良牧中案へ変更。
それも暗礁に乗り上げて、地域全体で話し合うことで、ようやく2000年4月にカラ岳陸上案が環境保全に徹する条件で新空港の建設場所に決まった。
この環境への配慮の徹底という条件が、県にデリケートな工事姿勢を構築させ、2万4000年前の人骨の発見という、予期せぬ大発見を生んだ。
そして、今もかく新空港事後調査委員会が動いている。
新石垣空港の決定から、環境影響評価書の作成、モニタリング方法を検討して、着工は2006年。この6年間、建設工法も検討されての取り組みで、2010年にC洞窟で国内最古の人骨発見につながった。その余韻ともいえる新空港への極めて厳しい環境保全感覚。
新空港完成から5年経ち、まだ続くモニタリング。昔を思い出し、石垣島の観光はこの空港建設に誇りを持つことから考えて、将来を展望してほしい。
(流杉一行)