松金物語が開演 初のシマムニ郷土演劇

 9月16日午後2時から石垣市民会館大ホールで松金物語昼の部公演が実施され、多くの市民がシマムニによる郷土演劇を楽しんだ。原作は大浜方美、脚色は糸洌長章、舞台監督は崎山健一。(敬称略)

 松金物語は、八重山の史実から来ており、新築祝いで歌われる習わしの「結人加奈志」「松金ユンタ」にその創作の原点がある。松金とは、1791年に石垣頭に登用された石垣喜宜氏の童名で、彼の出世を讃えた歌が「松金ユンタ」。その主人公松金が貧しい家庭で育ち、若くして両親を失い貧乏のどん底から這い上がり、頭職に就いた話で、終戦後の貧乏な時代に大川青年会がこの劇を上演し、地域で喝采を受けたこともあり、見た記憶ある多くの市民にはなつかしく、貧しさに負けず奮起する人の心の支えになる物語。

 あらすじは、貧乏で食べ物が無く、誤って松筑登之の畑から芋を獲ってしまい、芋泥棒と罵られた辛い体験を味わう松金。そこから奮起して、石垣頭職についた松金が、今度は芋泥棒と罵った松筑登之を新築祝いの日に呼び出す。幼かった頃、芋泥棒と言われた松金が獲った芋を出世したら返すと懇願するも、「出生するわけがない。出世したなら自分の10本の指を切って見せる」といわれた悔しさを、その場で晴らすのかと思いきや、詫びる相手が自ら指を切ろうとする直前に刃を持つ手を止め「あの悔しさから奮起して石垣頭職になれたことから、あなたは恩人だ」と、感謝の言葉を述べる。すると、松筑登之がそのことに感激して即興で松金ユンタを歌ってハッピーエンドで終幕となる。

 全台詞がシマムニで行われており、右側に設けられた幕に標準語の字幕が出る工夫がされて、方言がわからない人にも、楽しめる演劇となっていたため、会場は舞台と一体となって、拍手や手拍子で応えるシーンも生まれて、充実した舞台を展開していた。

 石垣市文化協会29番目の部会として誕生した郷土演劇部会の結成記念として公演されるもので、シマムニだけの郷土演劇ははじめてのもの。島の文化活動としても、演劇は文化活動の頂点的存在で、それをシマムニだけで実現することは、文化協会にとってもの夢の結晶ともいえる。今回、配役のオーデションからはじまり3ヶ月の土日の稽古を続けての公演実現は、方言を大切にする意味でも意義深いが、何より八重山の文化活動に自信をもたらしたこと。いわば、その方言で語られる言葉の柔らかさが、舞台でわかりやすく展開されたこと。消えつつある方言を、失わないためにも、この八重山の特質を見せられたところも、大きな成果といえてくる。

 なお、公演は夜の部も行われ、盛況に幕となった。

(流杉一行)

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