12月2日午後2時から石垣市立図書館2階視聴覚室で令和5年度特別企画「第30回 著書を語る会」が開催され、「島の木の図鑑」の出版社の有限会社うえざと木工取締役社長の
東上里和広氏と戸眞伊擴氏が著書を語った。
戸眞伊氏はトマイ木工所代表で、優れた木工製品を生産していることで知られる人気の工芸家。なかでも釘や接着剤など使わず、木材を精巧な接ぎ細工の技法で捻(ね)じり込んで組む、捻組接の技法で重箱や整理箪笥(たんす)をつくることで知られ、数々の賞を受賞。沖縄県工芸士の認定も受けている。島の樹木の知識も深く、国土緑化推進機構より「森の名手・名人」にも選定されている。
この日冒頭、「島の木の図鑑」を発行・出版する東上里和広氏は、島材をつかった木工に取り組む会社を営むことから戸眞伊擴氏から5年の時間をかけて製作してきたこの「島の木の図鑑」を紹介。戸眞伊氏から島材に関してその魅力を聞く機会を持ったことから、もっと知りたいとの思いで取り組んだことが述べられていた。
図書館に並ぶ学術的なものではなく、島材への考え方、いにしえからの言い伝えや、地域の出来事など、戸眞伊氏一色の本となっており、その知識を語り継ぎたいとの思いから製作を進めてきたとのこと。
ネット上には島材の情報はあっても、人の経験をもとにした深い木の知識は見つからないことから、戸眞伊氏からしっかりと聞き取ってきましたと、製作過程を説明した。
東上里氏は、すばらしい沖縄の島の資源と歴史、先人の知恵や思いを後世に伝えたいとの思いから、この図鑑をつくったと解説を締めくくっていた。
このあと、戸眞伊氏が17の島材に関して講演を実施。光に透けるリュウキュウマツ、偉い人が欲しがったイヌマキ、専売特許と取られてしまったクスノキ、暮らしを便利にするビロウ、日本で一番軽いデイゴ、印鑑のオキナワツゲ、染料のシャリンバイ、子どもたちの秘密基地のガジュマル、しびれるオオバアコウ、若い思い出のオキナワウラジロガシ、大工泣かせのオヒルギ、家や文化を支えるアカギ、福を呼ぶテリハボク、暮らしに欠かせないフクギ、子の成長を見守るセンダン、毒にも薬にもなるモッコク、何世代にも渡って受け継がれるリュウキュウコクタンと、ひとつひとつ魅力的な側面を説明していた。
樹ごとに、利用価値が違うことや、木工に使えるようになるための条件もそれぞれ違い、深い洞察がそこに溢れているのが伝わって、木を見立てるには長い経験が重要なことが伝えられていた。
木の話のほかにも、様々な話が披露されていた。最初は学校出た後は、東京にいる叔父の経営する簿記の学校へいくつもりでいたが、教師に石垣島の木工所にいけと決めつけられてしまったために今があること。当時は教師の声に逆らえなかったとのこと。仕事場では、難点があったという。
当時、左利きは敬遠されていたのを知っていて、戸眞伊氏は左利きであるため、それを隠すために苦労したことも紹介。入社5年間は木材を運ぶ仕事について、つくらない作業に従事。そして、ひとりになると気づかれないよう、右利きの訓練をして、右で使えるように鍛えたという。
その影響で両腕が利くために、右から左からいっしょに直角の線を引けるなどできるので、効率よく作業できたとも述べていた。
このほか、戸眞伊氏が海神祭のエークが、長崎のペーロン競漕の影響を受け、伝統の形状が変化したときに、その変化を嘆いてウミンチュに直訴。ウミンチュは協議して伝統のエークに戻す際に、そのエークづくりに協力して、スピードの上がるエークづくりに加勢した話なども披露していた。
なお、講演のあとは、図書館の1階展示コーナーに設置された戸眞伊氏の工芸品とともに、戸眞伊氏が並ぶ工芸品を解説。そこには捻組接象嵌入り重箱(ねじくみつぎぞうがんいりじゅうばこ)が展示され、捻組接だけでなく象嵌の技法も入った重箱が披露されていた。
このほか、60以上の木の違いを手触りで実感できるコーナーも用意されていた。山中で木の場所を見つけ、許可を得てから再度また山に入って取得し、加工できる状態まで調整し、仕上げるといった手のかかる工程を続けて実現した展示でもあり、戸眞伊氏は50年以上かかったとのこと。
木工好きな人には見逃せない展示であることは間違いない。これは10日まで図書館で見られる。
(流杉一行)