マラリアと平和教育 琉球大学が教師向け公開講座

 7月5日午後1時45分から石垣市役所2階会議室で、琉球大学医学部研究科による公開講座「感染症と平和教育」が行われた。

 小中学校の教員向けにおこなわれたもので、15人の市内小中学校の教員および教育関係者が参加。

 冒頭、琉球大学医学研究科の斉藤美加氏が、昨年伊野田に建立された「ゼロマラリアの碑」を紹介しながら、八重山でのマラリアの罹患者ゼロの快挙を教育に生かす提案をきっかけに今回の公開講座の開会がなったことを述べていた。

 この後、琉球大学医学研究科の佐伯光子氏が全体の流れを解説したあと、マラリアに関する講話を琉球大学医学研究科の斉藤美加氏が実施。

 「八重山のマラリアの歴史について」と題して、世界で人をもっとも多く殺している動物は?と問い、蚊により年間70万人が犠牲になっている世界の現実を紹介。このほか蚊に関する情報を様々にブリーフィングしていた。

 蚊は樹液や花の蜜を吸っているが、産卵のために血を吸うとして、人に近づく蚊は雌であること。世界に蚊の種類は3500あること、日本には122種類おり、沖縄は72種類、八重山は58種類。マラリアの媒介蚊は4種類で八重山にはかつては4種類いたが今はオオハマダラカ1種だけは見られなくなっていること。

 このほかマラリア原虫の感染は、蚊が吸った血を蚊の体内で消化して、蚊の唾液に濃縮されたマラリア原虫が、人に刺す際に蚊の唾液が器官(フン)から人の皮膚内に感染することを紹介。唾液といっしょに体内に入ることを述べていた。

 血を吸う器官(フン)は6つの針でなっていることや、その内の2本がのこぎり状で皮膚を突き刺すことなど、吸血のメカニズムを紹介していた。感染した場合の症状や、しないためにどうしたらいいかなどを紹介していた。

 歴史についても八重山では1530年頃にオランダ船から感染してから、蔓延したこと。

 第二次大戦中の日本軍がスパイを疑い、住民監視のためにマラリア有病地へ強制疎開させて、住民3647人が犠牲となった八重山戦争マラリアも紹介。また、戦後は米軍により抑えられたが、計画移民をきっかけに、厳しい暮らしが影響してマラリア罹患者が増加し、八重山保健所や住民が率先して奮闘し、1962年に罹患者がゼロになった厳しさも紹介していた。

 戦争マラリアの実態は、白水などでの強制疎開先の絵図(潮平正道氏作画)を紹介しながら、悲惨だった状況も詳しく説明。

 看病する母と罹患者の写真を紹介し、少しでも頭の熱を冷まそうと、パパイヤの葉の茎の空洞をつかって、水を罹患者に流していることを解説していた。

 細かにマラリアに関して知られていない情報もあり、戦争マラリアの悲惨さを伝えていた。

 シュミレーションゲームの教材説明は、教育に活用できるよう細かに注意事項を述べつつ進められ、八島小学校での実践の報告では参加者は高い関心をもって聞いていた。

 この日、詳しく説明されたシュミレーションゲームの構造は、子どもたちに想像の世界でジャングルへ行ったとき、必要とするものは何か。その理由を考え、グループでどうすればよいかを考えるというもの。

 ゲームは、カードゲームで、まずは配役を決める。4人一組になり、母、おばあ・おじい、5歳児、5年生の4つのカードを各自が選択。(ジャンケンで決めるのがスムーズ)

 次に、避難場所の状況を子供たちが把握できる絵など見せて、蚊に刺されやすい怖い場所にいることを想像できるように、誘導。そして、各人の配役のカードに張られてあったシールを剥ぐと、マラリア罹患しているか、していないかが記されている。そこで、家族4人全員がマラリア罹患、一人が罹患、半数が罹患、全員健康と様々な状況の各家族が決まる。子供たちに、人がマラリアに罹患すると苦しくなる状況を伝え、各組の家族がそれぞれ違う状況であることを把握させる。

 次に、グループ内の個々人が生き延びるために、お米・キニーネ・虫よけ・ナイフ・イモ・パパイヤの葉とバケツ(熱さまし)の6つのカードから、ほしいものに各人が付箋を貼って申請。次は家族のために話し合って、バッティングする場合などは、誰に渡すかを話し合って譲るか独占するかを各人が決め、ひとりひとつを選ぶ形にする。

 この時、話した内容(決めた理由)を覚えておく。次にグループの家族で助けを呼ぶことになり、誰を呼ぶかをグループで話し合って決める。呼ぶ相手は、日本兵、医者、おばあ、お金持ちで、日本兵はピストルがもらえ、医者はアカキナノキからキニーネをつくってくれ、おばあはミミズやカエル、海藻を探して料理でき、お金持ちはお金をくれる。そこで誰を呼ぶかをグループで決める。ここで、子どもたちはどうすればよいかを考え、意見をいうことで、マラリアで苦しい状況を疑似体験する。

 最後は、採点表が与えられ、選択結果から、点数で与えられ、合計7点取れた人は、生きのび、それ以下は生き延びれず、犠牲になったことになる。

 参加者は実際にゲームを体験して、八島小学校での実践研究の報告を聞いた後に、教材の改善点を考え、ディスカッションを実施。

 参加者は細かな改善点を指摘して、より子供たちが自分で考えることで、真剣に平和を希求するようになれる方策案を提示。

 参加者の感想を発表するコーナーでは、ゲームがもつ学習効果に期待する声がある一方で、死亡することになる生徒には、どうすれば死亡しないで済んだかについて、皆で考える機会もあった方がよいという意見も出ていた。

 点数で生き残れるか否かが判定されるゲームでしかないものの、厳しい避難所を想像しての配役の結果、厳しいシチュエーションの創造が、最終的に死亡するケースは、どこか救いのなさが匂い、幼い子供に絶望感を想像させたままの終わり方には、寒々としたものが感じられる。平和学習としてこれまでにない、優れたインパクトある教材ながら、実際に起こった事件を題材にするだけに、ゲーム後の着地点を、どういうものにするかは、難しいものがある。

 まだ仕上がっていないゲームとして、様々な意見を聞いて、今後も改良しながら、平和学習に適したものにしていきたいと、主催者らは抱負を語っていた。

 (流杉一行)

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