「SDGsの目標が絵に書いた餅となる」 世界湿地の日メディアセミナー オンライン開催 

 2月2日は世界湿地の日。この日を前にアンパルの自然を守る会主催の「日本最南端のラムサール条約湿地・名蔵アンパルと名蔵湾の生物多様性」と題するオンラインセミナーが開催された。

 このオンラインセミナーはZOOMセミナーで実施され、東京のWWFジャパン事務局から配信される形となり、WWFジャパン森林・野生生物室 野生生物グループの小田倫子さんが司会となり、6人による15分から20分の短い講演がおこなわれた。

 アンパルの自然を守る会からは島村賢正共同代表、カンムリワシリサーチから佐野清貴氏、日本野鳥の会からは葉山政治常務理事、日本魚類学会からは瀬能宏会長、九州大学・浅海底フロンティア研究センターの菅浩伸センター長、そして小田倫子WWFジャパン野生生物グループ・フィールドプロジェクトリーダーの5人が講演。

 副題には、「石垣リゾート&コミュニティ計画の環境課題と提言」とあり、石垣市前勢岳北側前面にあった元県営牧場が、大規模リゾート&ゴルフ場開発から改変されることで、いかに価値ある場所が危機的状況になるかが、鮮明にされたセミナーとなっていた。

 島村賢正氏は、名蔵アンパルに生息する多彩な生物たちを紹介しながら、生物多様性の価値に触れ、それを支える地下水系の重要性を述べ、利用上の課題を論じた。

 長年カンムリワシの生態に関して研究している佐野清貴氏は、特別天然記念物カンムリワシの生態を詳しく紹介し、生息地の改変が及ぼすカンムリワシへの影響を述べていた。

 葉山政治氏は、日本最南端のラムサール条約湿地としての名蔵アンパルの国際的な価値を述べ、保全の重要性を訴えていた。

 かつてラムサール条約は野鳥を頂点とする生態系を守る条約だったが、現在は湿地に生息する生物の生態環境を守る条約となっている。開発行為から環境の激変から、ラムサール条約湿地の指定が外されるケースもあることをインドの事例で紹介していた。

 石垣と西表でしか見られないカニやエビの固有種3種を紹介して、生態系の維持の大切さを述べていた。

 菅浩伸氏は、2014年に最新の計測機器を活用した調査から、名蔵湾の中心海域に陸でしか見られていない珍しい地形が発見されたことを紹介。
 氷河期に陸化した時、サンゴ礁石灰岩が浸食されてできたカリスト地形で、陸上に近い浅い海域での発見は珍しく、その保全は急務とのこと。
 発見まで、そのエリアではサンゴ礁の存在は全く知られていなかったことも、紹介されていた。

 瀬能宏氏は、名蔵アンパル周辺に生息する希少淡水魚類を紹介。名蔵水系の絶滅危惧種1Aのハゼを4種をはじめ、魚類の絶滅危惧種を多数あげてた。保全に向けた取り組みの必要性があるにもかかわらず、逆に大規模改変が起ころうとしている事態を憂え、日本魚類学会からの要望を述べていた。

 最後に小田倫子氏は、WWFほか10団体が沖縄県と石垣市および関連省庁への要請活動に関して、詳細に要請ポイントを解説。

 県や市が取り組んでいる環境行政を進めるうえで、名蔵アンパルの開発を許すことが、地域未来促進法や農地利用に関し悪影響を及ぼすこと。また、石垣市が取り組むSDGsの17の目標に言及しながら、市民の意見を聞かず、名蔵アンパルのリゾート開発を進める行為は、「SDGs目標が絵に書いた餅と化してしまう」と指摘していた。

 SDGsの国際的な取り組みに関し、発想の切り替えをしないまま行政が、安易に国際協調の時流に乗ろうと、名目や売名で17ゴールを活用しながら、実態が自然破壊をすすめる開発行為に、甘いままであるとすれば、食えなものを見せられているだけとなる。

 
 (流杉一行)

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