「合意形成」の大切さ 海と島の観光資源の持続的活用を考える

 日本弁護士連合会(日弁連)主催による異色の観光資源シンポジュウムが4月7日午後1時から石垣市民会館中ホールで開催された。

 昨年、しらほさんご村など八重山各地を訪問するなどして、八重山の自然と観光との間の環境保全を調査していた日弁連の公害対策・環境保全委員会の弁護士が、一年かけて取り組んできた八重山における新たな試みでもある。

 全国の様々な社会問題に取り組む日弁連が、最南端で開催する法律関係者による環境保全シンポジュウムで、会場には100人を越す聴衆が集まった。

 八重山では、景観条例の緩和や、白保や竹富島でのリゾート開発への住民の反発など、観光客来島の増加に伴う観光景気便乗をねらった内外の動きが活発化しており、開発行為にともなう島の負担の増大は、多くの人の憂慮するところ。

 日弁連が今回開催したシンポジュウムは、沖縄の失われつつあるサンゴへの警鐘と、いかに島の観光資源である自然を持続的に利用するかについて、2つの基調講演と二人の現地報告、海外調査報告がおこなわれた。

 基調報告で際立ったのは、大久保奈弥准教授による「沖縄のサンゴの特徴と保護の必要性」と題した講話で、きっぱりとサンゴの移植は効果ないことを紹介。

 サンゴの保護には、農地からの赤土流出と生活排水からの栄養塩流出を止め、水質の保全を中心に、海の保全に取り組む方向性への修正を述べていた。

 また、田中俊徳氏の基調報告では、世界遺産の登録を控えて、なおヒ-トアップする可能性の高い八重山で、自然を守るには、地域がつくる保全利用協定や、観光入客者からの環境協力税の徴収による環境保全の取り組みなどを紹介。今後の取り組み目標を提示していた。

 現地報告では、川平の景観を守る会の橋爪千花氏から、近年、厳しく決められていた川平地区での景観条例の高さ制限が、開発を容認する方向へ緩和されようとして、川平地域がそれを阻止した事例を発表。

 いっしょに緩和へ向かわせられた冨崎地区も、近年、高さ制限を厳しい頃に戻ったことを報告、ただ、2つのこの地区を除いた石垣島全体では、高さ制限が外され、10m以上の建設には景観形成審議会の意見を聞くこととなり、制限緩和の全島的な広がりを懸念していた。

 最後に川平村での土地買戻し運動から、地域おこしに取り組み、地域が元気になることで、観光が盛んになった現象を述べ、遺すものをしっかり遺すことで、地域が潤う場所もあると述べていた。

 沖縄の本土復帰直後におこったかんばつで多くの農家が農業を断念し、本土資本に土地を失った後、Uターンして戻って来た島の青年らが、買戻し運動を展開して、戻した土地で村おこし運動に取り組み、地域の伝統を復活させ、村に活気を生み出したことで、川平の魅力を知った観光客が多数来るようになり、村が栄えたことが述べられていた。

 次に白保リゾートホテル問題連絡協議会渉外担当の柳田裕行氏から、「白保地区の自然の特徴、保護の歴史」を題に現地報告された。

 新空港建設で揺れた白保村の環境保全への取り組みを、サンゴとともにあった白保村の暮らしぶりを紹介し、白保地区での環境保全の取り組みを白保公民館が軸に、白保ハーリー組合、白保魚湧く海保全協議会、白保村ゆらてぃく憲章推進委員会、NPO夏花、白保市運営保全組合が、連携して取り組んでいることが紹介されていた。

 また、レジャー事業所向けに白保村独自がつくった、県に6番目に認定を受けている保全協定についても説明。

 そして、白保の海のそばに計画されたリゾートホテル建設の問題点を述べ、排水による周辺海域の悪影響、光害による自然や漁業への悪影響、過剰な観光利用による海域や住民生活への影響を指摘。

 住民の意思や自然環境を尊重しない企業姿勢を問題視していた。

 白保の陸域での開発規制に関して、都市計画法では開発行為の条件に周辺環境への配慮や住民の同意が含まれないが、いまある石垣市景観づくり条例を強制力をもつ条例に改正すれば、周辺環境への配慮をしなければならないことになってくると述べ、今後の取り組みの方向性を示唆していた。

 そして石垣市行政の優れたプランがあり、それを活用して取り組んでいきたいと述べていた。

 海外調査報告では韓国の順天湾湿地の保全運動について、日弁連公害対策・環境保全員会委員の岩本研氏が、環境調査とラムサール条約湿地への指定に向けた取り組み、既存の開発地における調査を通じて、開発行為の成果の薄さの検証などから、粘り強い保全運動が功を奏した話が紹介されていた。

 最後にパネルディスカッションがおこなわれて、基調講演および各報告者が登壇して、日弁連同委員会の菅野庄一氏がコーディネーターを務め、観光勃興の中、島の自然環境をどう守るかを話し合い、可能性、方向性を提示しあっていた。

 パネルディスカッションには、当初は中山石垣市長が参加予定だったが、出られずに特別報告として石垣市観光文化課の宮良賢哉氏が加わって、石垣市のこれからの取り組みを紹介。

 島の将来を見据えた観光資源の持続可能な取り組みについて紹介し、今年、イベント開催を予定していることなどを、告知していた。

 なお最後に、山本英司日弁連公害対策・環境保全委員会委員長は、環境を守れない法の不備を質問する声があったことに触れ、日本の環境行政に対して、随時意見を述べていくことを続けていかなければならないと、強く感じたと述べ、環境保全は「持続可能」がキーワードになり、いかに住民の側で合意形成を遂げていくか。このことの大切さを痛感し、それが今後の焦点ではないかと述べていた。

(流杉一行)

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