<日曜の朝に>上勢頭篤竹富公民館長インタビュー

上勢頭篤竹富公民館長。1959年(昭和34)生まれの58歳。竹富小中学校を卒業後、沖縄の高校に進学。東京の専門学校を出て24歳の時に島に戻ってきた。あれから34年。竹富一筋。いまや立派な「島持ち」である。

さいきん新聞紙上を賑わしているリゾート問題、温泉開発、入域料などを中心に、竹富島の課題と将来、「島の心」などについて聞いた。

●公民館はコンドイ浜近くのリゾート開発計画に反対されています。

その前に、まず島がいちばんに心配したのは、新空港ができて観光客が一気に増えて、竹富島も一気に増えたこと(2014年約52万人、2015年約51万人、2016年約48万人=竹富町ホームページ)。

島の年寄りは門を出てびっくりした。自分の家の前をあんなに人が行き来している。なんとかならんか、とまずあったわけ。竹富島は観光で食べているけど、ある程度人数を制限しないと大変なことになるなあと、その面がまず一つある。

そこに、2014年の種子取祭まえだったか、那覇の不動産会社アールジェイエステートから、コンドイの近くにホテルをつくりたいという話が出た。この土地はむかし「コンドイの宿」という施設があったところで、何度か転売されてこの会社のものになっていた。

観光客が増えたとはいえ、島の民宿が100%稼働しているわけではない。そこに星のやと同じ100人規模の、しかも長屋形式の建物をつくる計画。それは竹富の町並みにはそぐわない。

何度か話をした。向こうとしては、星野リゾートがよくてなぜ自分たちのはダメなのかと。いや違うんですよ、竹富は星野リゾートの計画を丸々受け入れたんじゃない、3年以上話し合いを持って、島の心を伝えて、その島の心に賛同してくれたから造らせることになったんですよ、と。

県の開発許可は出ている。しかしそのまま造らせたら大問題になる。水問題、ゴミ問題などについては竹富町と契約を結ぶことになるので、ここは竹富町も入ってもらって相談をしようとこのあいだ町長にお願いしたんです。

それに、竹富島でいちばんキレイなコンドイ浜ですよ。向こうとしては、コンドイにはシャワー室もコインロッカーも少ない、だったら造ってあげますよ、レストランもと、コンドイ浜をリゾート感覚で囲ってしまおうと考えているのかもしれません。

いずれにしても町を入れて3者できちんと話し合いをして、島を守るために、島の心を伝えようと思っています。

●温泉問題はどうなっていますか。

島の東海域に温泉が発見されて、それを引いてお年寄りに喜んでもらおうと計画したのが友利哲雄町長の時代だった。だから、老人コミュニティーセンターの浴槽はでっかいですよ。しかし温泉は実現しなかった。

島の年寄りには温泉に対する夢がある。興味津々、楽しみであるわけ。だから温泉を掘るなとは言えない。温泉は出たそうです。しかし、温度はどれくらいなのか、成分はどうなのか、説明会での当事者の話だけで、誰も確認していない。これも町に確認をお願いしています。

温泉が出たら温泉施設は必要だろうと思ってはいた。ところがやっかいなことにその場所がマーチ御嶽のすぐ隣り。ですから、施設をなるべく御嶽から離して造れないかと話をしているところです。

もう一つ問題なのは、計画のなかに宿泊施設がずらっとあるんですよ。宿泊施設までは聞いていなかった。今、これでもめているんです。これもコンドイと同じような、長屋形式の建物。

島には町並み条例があるわけですから、それに沿った建物でないと困る。キレイな癒される島だから観光客が来るわけだし、ホテルがどんどん増えて観光客ばかりがいっぱいになって竹富の良さが無くなったら元も子もない。

星のや、コンドイ、温泉、それに他の業者も入ってくるようになると、儲け主義に走るのは明らか。これは困る。共存共栄できる規模というのがあると思うんですよね。

●共存共栄のひとつの方法として入域料についての話が再び浮上してきています。

いま町並みを守ろうと一生懸命やっていますが、家を造るときは補助が出るんですよ。ありがたい。ところが家も10年過ぎる頃には漆喰が剥がれてくる。

塗りなおさないと、雨漏りがしたり、大きな台風がくると瓦を飛ばされる。その漆喰を塗るのに100万以上かかるんですよ。

竹富にはたくさんの観光客がくる。観光業者は潤うけどみんなに等しくお金が落ちるわけではない。ふつうのおばあが漆喰代100万、150万出せないよね。

町並み保存のために漆喰を塗ったり石積みを直したり、観光客用のトイレも増やし、休憩所も必要ではないか。島の人にも観光客にも喜ばれるお金の使い道がある。

もうひとつ。復帰前後に本土企業が買った土地が点々とあるんですよ。もしも入域料が入ったらそれらの土地を買い戻すためにつかえないかと。今後もコンドイのような問題が考えられますからね。

自然資産法という自然の資産(竹富の町並みも資産)を残すための新しい法律ができたというので、将来は竹富町全体のことだけど、竹富島をモデルとしてスタートしようということになっています。

●さて、「島を守るために、島の心を伝える」という話が出ましたが、「島の心」とは何ですか。

伝統行事の心です。感謝の心、祈りの心です。竹富はむかしから祭事表にしたがって行事が行われていきます。やるのは大変だけど、これがないと島の心はもっていけません。

自分が健康で島が平和であることを神に感謝し、また行事が無事にできますようにとカンツカサ(神司)を入れて神に願う。ひとつずつ行事をやっていって、メインは種子取祭。準備やら段取りやら大変さ。だけど祭りが終わると、ああ、やったね、今年もまたできたねという充実感。これがまたいいんですよ。難儀も喜びになる。

島では今、農業はしていない。観光業は種植えはしないが、心を植えるのは同じ。感謝の心があるから観光もうまくいく。祈りの心があるから自分らもうまくいく。そういうことを行事を通して教え、伝えて行く。

また、行事を一つひとつきちんとやることで、竹富最大の行事種子取祭ができるんだよと、小さなことを一つひとつ段階的にこなしていくことが必要だよと教えるんです。

むかしは貧しい農業の島だから、耕して、種を植えて、あとは神に祈るしかなかった。

僕なんかまでは親父に連れられて畑に出た。学校から帰ってきたら、フーヤ(母屋)とトーラ(台所)の間の地面に、「○○の畑に行っている。手伝いに来い」と書いてある。はー? 見ないふりして遊びに行きたいけど……。

僕なんかは辛うじて農業の暮らしを知っているけど、息子の世代は畑なんか全然していないさ。だけど、時代が変わっても同じ形でやる。ただ、祭りに必要な粟やニンニクなどはせめて栽培しないとね。だから、3部落の顧問のみなさんにお願いしているところです。

●行事をすすめるための秘訣のようなものはありますか。

行事をするには予算が必要です。むかしでいえば人頭税ですよ。賦課金といいます。賦課金を年齢によってAからGランクに分けて徴収します。

4月になってすぐの議会(部落の月例会)のとき、まず賦課金を払う生産人調べから始まります。竹富に住んで1年以上の人に賦課をお願いします。

竹富の3つの部落(東、西、仲筋)のそれぞれの自治組織がすごいと思う。各部落は毎月15日(都合が悪ければその前後)には議会がある。

そのときにいろんな情報が出てくる。新しく人が入ってきたら、議会に呼ぶ。情報を共有し、問題があれば話し合いをし、さらに行事を一緒にやることで新しい人もだんだんと島の住人になっていく。

公民館よりもむしろこっちのほうが大切だよね(直接民主制!)。公民館はこの15日に合わせて「公民館便り」をつくって配る。すると各部落では行事に向けてどう取り組むか具体的に決めて行くわけです。

公民館のスタートは4月1日。前の日の3月31日の昼は公民館の定期総会、夜は各部落の定期総会、そこで役員が決まって、4月1日には西塘の神の前で新旧役員揃って神様に報告するんです。旧役員はお礼をやり、新役員はお願いをやる。

●20数回の伝統行事をやり、いろんな問題に対処しないといけない。公民館長は大変でしょう。

コンドイのような問題がなければ、行事だけをやっていくのは楽しいですよ。行事をやるだけだったら、公民館長をやりたい人いっぱいいると思う。

しかし今は、個人はないよもう。公人、法人だよ(笑)。家に帰っても個人に帰る暇はない。飯食ったらすぐ出て行く。「きょうもまた集まり?」

毎日毎日忙しいさ。だけどみんなで集まって話したり、情報交換、相談、飲んだりとこれがまた面白いんだよ。

きょうはブガリているから行かんよと思うけど、夕方になったらやっぱり、踊りの練習を見に行ったり、その後はまた飲みますからね。

9月になったら、「ああまた種子取がくるよ」「はあ難儀だなあ」と最初は言うさ。ところがコレをこなして終わらしてごらん。はあ、幸せさ。

こんな楽しみもあるよ。
各部落から主事を出す。あいコレ大丈夫か、島持てるかなあと初めは思うよ。ところが育つわけ。部落が育てる。

部落も「自分らが上げた会長に協力しないでどうするか」とみんなで協力するから、主事にも自覚が生まれてくる。それがまた次の輪である公民館で揉まれる。

行事が人を育てるのか、人が人を育てるのかわからんけど、人がだんだん育っていくのをみるのは楽しみですね。

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