世界遺産の受け皿は環境保全の能力

 去る7月26日、正式に世界遺産に登録された西表島。奄美と徳之島と沖縄本島北部とともに世界自然遺産となった。

 正式名称は、奄美大島、徳之島、沖縄本島北部及び西表島世界自然遺産。

 主催者のユネスコは「世界遺産とは、地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から現在へと引き継がれてきたかけがえのない宝物」とし、「現在を生きる世界史の人々が過去から引き継ぎ、未来へと伝えていかなければならない人類共通の遺産」としている。

 世界遺産は1972年のユネスコ総会で採択された世界遺産条約の中で定義されている。

 日本では、平成5年に登録された屋久島を皮切りに、白神山地、知床、小笠原の4か所が自然遺産に登録され、今回国内5番目の自然遺産登録となる。

 9月22日、この新たな世界自然遺産の科学委員会がオンラインで実施された。

 科学委員会は、各生物関係の学術関係者委員となり、観光管理、ロードキル対策、河川再生、森林管理の課題解決に向け、2022年夏までに報告書を作成するというもの。

 1年もない期間に、点在する島の状況をどうつかみ、どう対策を組めるのか。季節ごとに違う姿を見せる大自然。短い期限の中での報告書の作成となる厳しさはなぜなのか。

 日本式の事務局要綱を皆で承認して済まされるようなものは、国際規格にない場合、情報の精査がいかにできるか。エビデンスの提示は楽ではあるまい。しかも範囲は4地区に広がる。

 元来、自然保護が中心にある世界遺産。5つ目の遺産が、資産と思っていたら、負債にまみれていたということにならないように願いたい。
 目下、石垣島では、蝶や甲虫などの乱獲が進んでいる。

 毎年アカハラダカが飛来するのをバードウオッチングしようと、石垣島バンナ公園渡り鳥観察所に愛鳥家が集まる。

 その観察所の駐車場や、そばの南の島を観る展望台の駐車場に3m以上はある長い柄をつけた特大の昆虫採集用の網を持って、昆虫を採集している人を、9月5日から連日見るようになった。それ以前から来ている可能性は高い。

 バンナ公園の管理会社に聞けば、公園内での昆虫採集は禁止だという。採集者は、バンナスカイラインは市道で県営バンナ公園の管轄外だと、上手に市道に逃げ込む。西表島の世界遺産登録から、同じ動植物が生息する石垣島での極秘の生物捕獲が横行すれば、どうなるか。

 snsでそれが昆虫採集マニアに、規制の死角となる場所情報が広まればどうなるか。またそこをガイドするような不埒なもぐりの自然ガイドが横行するとどうなるか。

 まさに、世界遺産登録は、西表島だけの問題とはならないことが、世界遺産関連機関には知ってほしいところ。登録前からあらかじめ、このことを頭に置く必要があったのでは・・・。

 世界遺産に登録されると、自然保護への関心が高まると共に、観光産業が地域振興に資すると、魅力を経済にもシフトする当局。しかしその経済の一端に乱獲横行があってよいわけがない。八重山諸島の自然豊かな各島がねらわれる可能性は見逃してはいけない。

 竹富町は動植物の持ち出しを禁止している。石垣島でも石垣市自然環境保全条例で保全種に指定されている動植物の採取や殺傷・損傷に罰金が科されることになっている。

 世界遺産登録で価値も高まれば、事前に石垣島でも、厳しく取り締まっていることを、より広く広報する必要がある。

 規制が必要な現場は、西表島だけではなく、周辺の島の豊かな自然もターゲットになってくる。乱獲と環境破壊が見えない場所で進むおそれが出てくる。

 登録前に、そこをしっかりガードできる体制をつくる必要があったように思えるが・・・。

 環境省は、すでにこの動きを察知して、監視活動を実施していると聞いている。

 世界遺産ともなれば、外国人観光客も来る。規制自体が多言語対応でバタバタになる前に、急ぐ必要があるはず。

(流杉一行)

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