カンムリブダイの産卵は八重山が北限

 2017年3月31日に発行された沖縄生物学会誌の資料冊子「カンムリブダイ(スズキ目:ブダイ科)の生物学的特性と八重山海域における資源特性」が世に出てちょうど1年と11日が経った。(発表者は、下瀬環、秋田雄一、太田格、宮本圭の4氏:敬称略)

 カンムリブダイなる魚は、海外で知られる大型の魚類で、その巨大な群れを見ることはダイバーの憧れである。そのカンムリブダイが沖縄で食用に獲れていることは、そう知られていない。沖縄ではカンムリブダイを「グジラブッダイ」と呼ばれる。ウミンチュにカンムリブダイと言ってもぴんとこないから、魚市場に出ても、カンムリブダイという言葉は聞けない。

 上記論文は、八重山で漁業をする人にカンムリブダイについて、聞き取り調査を実施した情報を記したもので、かつて多くのカンムリブダイが八重山諸島近海で捕獲されたことが分かるもの。カンムリブダイの産卵地がどうやら八重山が北限であるとの内容となっている。

 記者も、あの巨大で大がかりな群れをなすカンムリブダイは、テレビで見たことがある。

頭に出っ張ったコブをもつ巨大な魚で、その論文にはソロモン諸島では20歳で110センチにも達するものがあるとある。
実際、2015年2月3日に長さ92センチの16キロになるカンムリブダイが八重山漁協に水揚げされたとある。13歳前後であろうと書かれてあり、巨大化するブダイが、今も八重山で生まれている話は、大いにロマンを感じるが、実際は複雑だ。

昔はたくさんいたが今は減ってしまった話であり、乱獲の末に減った魚種であれば、いい思い出ではない。

 ただ、今も1キロ前後のグジラブッダイは、時々漁協のセリに出されており、それはうれしい光景と言える。島には、この魚種に目をつけ、いつもサシミや寿司にして出す和食の料理人がいるが、話題にしないように言われるのは、値段があがるため。実際、グジラブッダイは、ブダイであっても肉質はブダイよりもシロクラベラに似ている。

旨いし、日持ちが良く、扱いやすい高級な魚。それが広がると間違いなく島では値が高騰してしまう。実際、キロ1400から1800円で、通常のブダイの値にくらべれば、破格だが、これがシロクラベラ級になれば、それでは済まない。

 沖縄3大高級魚種とされる、アカジンミーバイ、アカマチ、マクブーに、八重山だけグジラブッダイが加えられ八重山4大魚種などとされると、それこそ島では全く食べられない魚種となってしまう。(実際、獲れる機会も多くなく、値も張るために、見かけることはすでに少ない。)

 沖縄本島でも水揚げはあるために、特別視はされていない魚種だが、八重山が産卵の北限という論文が発表されたことで、グジラブッダイは八重山の魚であることを、ここで改めて把握したいところ。空のカンムリワシが石垣島の国の特別天然記念物だが、海にもカンムリブダイなる密かな特別な魚種があること。

ただ、食べたい魚であれば、国指定は、ほしくない。地域振興の素材のひとつになればと思うが、論文が発表され一年経っても、話題にならずに済んだのは、そこはじっくり口コミで、分かる人だけで、獲りすぎない配慮をしながら、見守っていきたいところだ。
 
 
(流杉一行)

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