コロナ禍で目指すべき観光振興 山田桂一郎ほか講演 YVB 観光の将来像を展望

 10月16日午後2時からアートホテル星砂の間で八重山ビジターズビューロー主催の観光講演会が開催された。

 新型コロナウィルスの影響で落ち込む観光は、全世界レベルで続き、弱まる気配はない。第2波、第3波の話題が持ち上がって、各国ごとに対応に追われている。

 深刻な経済をどう持ち直すか。感染拡大を抑えながらどう経済を動かし始めるか。ワクチンや治療薬でも、飛躍的解決がまだ期待されない中、先の読めない状況が続いている。

 そんな中、八重山ビジターズビューローが観光講演を開催。講師は、スイスツェルマット日本インフォメーションセンターの山田桂一郎代表、琉球大学の越智正樹教授、北海道大学の石黒侑介准教授の3名。

 これまで八重山ビジターズビューローは、コロナ前から何度か観光の将来を展望する講演会を実施してきた。

 なかでも日本の経済政策が国際観光にシフトする傾向から、インバウンドの勢いの中で八重山観光の立ち位置を考えるうえで、大いに関心を呼んできた。

 製品輸出の伸びだけで経済を支えることが難しい日本は、外国人観光客を受け入れ、国際観光で国を富ませる政策へ舵を切っている。

 しかし、その実態は国内への外資の経済進出が進んで、地域にお金が落ちず、地域の力が衰退する方向が課題として注目されていた。

 そんな中で、八重山のコンテンツが持つ可能性に地域力をアップさせるだけのモデル的な可能性があると、山田氏らの提言で、八重山ビジターズビューローが観光講演を何度か続けてきた。

 今回は、少し事情が違っている。実際に過剰に感じていた八重山への観光客流入が、コロナの真っ最中であるだけに暗転。インバウンドは完全ストップ。

 国内での移動も自粛期間が続き、今、GOTOトラベルなど、国の支出に頼る観光が強引に細々と存在するギリギリの経済活動を支えている。

 そんな中での観光講演会は、これまで課題だった「観光における量から質への転換と付加価値の高いサービスへの取り組みについて」と題して、3氏が各人そのテーマで講演を実施するもの。会場には約100人を越す来場者が集まった。

 冒頭、八重山ビジターズビューロー会長の中山義隆石垣市長が挨拶に立った。

 市長は観光が昨年までは順調だったとして、148万人の入域客数をあげ、観光消費額が982億円と過去最大を記録したことを告げていた。

 一方で、コロナの影響は甚大で、1月から8月までの昨年対比は39%と、落ち込んでいること。年度で区切ると4月から8月が20%と、その深刻さを報告。

 GOTOでやや持ち直すも、新型コロナがいつまで続くか先行きが見えず、有効なワクチンまだ先として、経済をどう復活するかが重要としていた。

「量から質の転換と付加価値などの課題に手が付けられずに来た。この機会に手を付け、改善策を打っていきたい」と述べ、八重山のリピータと共に発展することで、次の時代の観光地になっていくのではないかと述べていた。

  市長は、観光の課題を列挙して、
 「量から質の転換」「高付加価値サービス「年間を通した入客数の平準化」「航空機を利用した入域客数・宿泊数増加」「滞在日数の拡大」「欧米系の市場開拓」を述べ、集まった「皆様と情報を共有することで、観光振興に取り組んでいきたい」と述べていた。

 このあと、琉球大学の越智正樹教授の講演がスタート。氏は全般的な考える方向性の整理として、観光の量から質の転換について述べていた。

 転換を考えるなら、なくなる、失う、目指さなくなるものがあるとし、何を失う覚悟なのか。なくす覚悟なのかを強調。

 質への転換は、サービスの品質を高めるではなく、どういう量をなくしていくか。
 低品質で多売的な観光を整理していくという意味でのこと。
 しかし、これによって片や低品質をなくし、片や現状のままにとなれば、共倒れの可能性がある。そこは、地域がどう判断するかにかかっている。地域でどうできるか。

 そこで事例を紹介。
 10月末にツーリズムネクストジャパンオキナワが開催される。
 ダークスカイツーリズム、リゾテック(最先端リゾート技術)、アドベンチャーツーリズムがテーマになる中、このアドベンチャーツーリズムに注目していると越智氏。

 海外にはアドベンチャーツーリズム顧客があり、その市場を運用する団体があることから、それとのリンクをDMOと民間が実施して、日本におけるアドベンチャーツーリズムのガイドを繋げることが、想定されてくると述べ、DMOが質的な向上を目指すモデルを提示していた。

 アドベンチャーツーリズムがエコツーリズムだけでなく、食も宿も物語性を持つ形にすることで、従来とは違ったものに転換する。
「面的にひとまとめにしたストーリーを提供することで、価値を高めていく。そこで客単価を高めていく。」とする。

 「質への転換として注目していくものですが、これを事業者さんがすべて取り組めるかというと、難しい。これまで通りのエコツーをする業者さんがいるでしょう。ただ、これは量から質への転換と言えるか。」と、覚悟を求めていた。

 いわば、従来のエコツーの業者と、アドベンチャーツーリズムを進める業者が出てきて、これでは業者さんが増えていく流れに厚みが生まれ、これは量から質への転換と言えるかという。

 「ここから先は、地域の判断となります。」と、

 八重山はどういうお客さんへ、どういう観光を提供する地域になるのか、話し合わなければという。
 あれもこれも目指しますでは、共倒れになるとのこと。
 「量から質の転換そういうことだと思っています。」と、越智さんは述べていた。

 量を増やすままであれば、それでは、オーバーユースやウイズコロナへの対応は、限定的になっていく。

 地域が地域のどういう強みをブランド化していくかの判断が必要となる。
 そこで地域の判断をDMOが旗振り役をしていく。
 と越智氏は、DMOの役割が、いかに高度になるかを述べていた。

 このあと、北海道大学の石黒侑介准教授が、オンラインで講演を実施した。

 石黒氏はいう。
 質に関して高所得者をひきつけるのが大事かというと、1500万の所得人は旅行に使う費用は年間30万強。そういう人を呼べるか。

 4%ぐらいの人で、地域が選択をできるか。通常のインバウンドでは、一回の滞在で20万円、所得2000万円以上でなければ、この層に入ってこない。

 実際にインバウンドで日本に入ってくる人は500万円以内。せいぜい所得1000万円。数%の人。小さなマーケットとなるシビアさをどうするかとなる。

 さて、マスツーリズムとエコツーリズムの2項対立で見がち。マスなのかエコなのか。エコは少ない。マスは多い。エコだけの事業者だけでは、難しい。

 そこで、エコの層を、マスにしていく。そしてマスをエコに近づけていく。

 どちらかの形でなければというのではなく、どっちのリスクを取り組むか。どっちから開始するか。マスだけでは、環境問題、住民の不満、オーバーツーリズムとなる。エコだけでは、困難。経済的にもたない。
 エコとマス両方からの、接近が必要と思われる。
と、述べていた。

この後は、バルセロナの状況を紹介していた。

 氏の提言は、ある種の折衷案的だが、マーケットの数値把握から入ることを述べて、具体性をもって、各業態の精緻な市場調査・観光リピータの意識調査が重要ということかも。

最後に、「コロナ禍で目指すべき観光振興について」~量から質への転換と付加価値の高いサービスの取り組みについて~と題し、山田桂一郎氏(JTIC SWISS代表、スイスツェルマット観光局インフォーメーション・セールス担当)による講演が行われた。

 山田氏は、重要なポイントは2氏がすでに言われているので、不足する部分を付け足す形でインバウンドとコロナに関して話を進める意向を示した。

「コロナで外国人観光客が来れる状況でありませんが、各国で徐々に動き始めた感じもします。」と述べ、外国から見える日本のコロナの状況を、死者数を軸に見比べ、欧米に比べて少ない死者数で、台湾ベトナムタイから見れば、まだ危ないという感じとの見方を紹介。

 世界全体でも陽性者数に比例した死者数が、7月以降は死者数が比例しなくなって横ばいが続いている。死者の平均年齢は80代で、死者の持病きっかけで亡くなる状況がある。

 死亡率はインフルエンザの方が2・7倍高いとも。山田氏は、医療体制を整備して備えることが第一と述べていた。

 「先行きインバウンドが始まるのですが、今ある海外旅行代わりに北海道や沖縄へ来る観光客は、リピータになりますか」という。

  また、「コロナ感染を完全に抑え込むと逆に海外交流の再開は新たな感染を恐れて難しくなる。感染拡大を放置すれば、これも対外交流は外国から再開してもらえない。となると、感染が出るごと抑え、限定的な自粛で制限を強めたり弱めたりが可能な国同士が、交流可能な関係づくりに進むしかない。」と、インバウンドの将来の厳しさを述べていた。

 このあと、スイスがコロナ禍の中で世界で安全が国ランキング1位を紹介し、スイスでのコロナ対策の事例を紹介するなどしていた。

 安全基準は八重山と変わらないが、クリーン&セーフ認証マークを統一してつくり、それをいろんな場所に出すことで、地域が全体で統一した取り組みが伝わり、安心感向上に役立っているところを紹介。

 山田氏によると、スイス・ツェルマットではリピーターを大切にしており、顧客管理DBを使い、20年に20回来訪するリピーターに金バッチを贈呈し表彰をしている。

 そんな会員が1万7000人いるとのこと。大きな災害がある等、新規顧客が厳しい中で起こる風評被害などの困ったときはリピータに助けてもらっているとのこと。

 今、欧米ではサステナビリティトランスインフォーメーション(SX)が唱えられて、利益追求ではなく、社会的な役割を担うべく地域の持続可能性を追求する戦略が進んでいるとのこと。

 日本でも今年6月に持続可能な観光ガイドラインが提唱されていると述べ、この方面も取り組んでみればよいのではないかと、提言していた。

 このあと、気仙沼の事例を紹介して、売り上げを120%にした話を紹介。

 気仙沼市で地元資本だけで組んでいる公企が、3年かけて地域のものを活用して、地域経済循環を起こし、景気と税収を向上させ、コロナ禍でも右往左往しなくてすんだ話があった。

 ポイントは、顧客とつながるしくみをもったことで、それは復興支援者、観光客、地元出身者にカードを発行。

 一元管理を図り、地元商店の地域消費額を把握し販売促進をする仕組みを構築したこと。会員数2万6000人で、そのカード保持者を新たな市民として関係性を構築していくものにする。

 いわば、航空会社のマイレージカード、コンビニのポイントカードを、地域で持つ形。これが稼働している中、コロナの陽性が気仙沼で発生した時、カードのデータで売り上げの落ち込みを見て、地元景気を支える取り組みをスタート。

 一週間で市民向けにデリバリーのメニューを発信。仙台市民へ「こんな時期に気仙沼に来る目的は」というアンケートをして、ニーズをつかんみ、県内要所でチラシを配布。カード会員にはDMをうって誘客。

 次に首都圏の会員にも同じアンケートを実施して、それをもとに気の利いた観光地マップを制作し、来訪者には3000ポイントがつくと誘客。このほか、特別限定のプレミアム体験3万円の豪華料理ツアーやクルージングツアーを募集。あっという間に定員が埋まった話があった。

 かくして気仙沼市がコロナ禍でも売り上げが昨年比35%増となったことを述べていた。

 コロナ禍でも気仙沼だけが前年を上回る売り上げができたのは、リピーターのおかげだったことを述べ、顧客の望みを読み解き、顧客の生涯価値を得ることが大切だと述べ、リピータを増やし、顧客満足度を向上させ、顧客との関係を構築しながら進歩進化するしかないことを自覚することが大切だと述べていた。

 新規顧客開拓だけで成り立つ商行為は無いとし、困ったときに助けてくれるのは贔屓(ひいき)で馴染みの客だけであると、山田氏は述べ、石垣が、竹富、与那国、との連携でワンステップ上がっていただき、量より質の転換を図れることを、期待しますと述べていた。
 

 (流杉一行)
 
 

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