石垣島天文台の施設が公開されたのは2006年4月1日だが、前月の3月12日に完成記念祝賀会が開催されている。11年前の今日である。そこで、きょうは石垣島天文台の話題を。
どんないきさつで石垣島に天文台ができたかについては、『月刊やいま』2005年7月号特集「星ふる八重山に生きる」に詳しいが、次の年表を示せばだいたい想像がつくと思う。
2000年 八重山星の会結成
2002年 VERA石垣島観測局開設
2002年 南の島の星まつりスタート
2004年 八重山星の会NPO法人に
2005年 「南の島の星まつり2004」が第9回ふるさとイベント大賞で優秀賞に
2006年 石垣島天文台開設
つまり八重山星の会の熱意と国立天文台の理解が行政を動かしたといえよう。現在「国立天文台、石垣市、石垣市教育委員会、NPO法人八重山星の会、沖縄県立石垣青少年の家、琉球大学の6者の連携によって運営」されている。
開設から11年。現在の石垣島天文台の様子を副所長の花山秀和さんに話を聞いた。開館年7379人であった入館者数は10年後の2015年度は13906人。約2倍に増えた。
「ここは天文愛好家にとってたまらない場所になっていると思います」という。「空の良さ、地理的な良さ、設備の良さ」三拍子そろっているのだという。
空の良さ=大気の揺らぎ、星の瞬きが少ない。
「ジェット気流の影響が少ないですから星が明るくシャープに見えます」
地理的な良さ=21個の一等星がすべて見える。88の星座のうち84の星座が見える。
「東京などでは見えない、南十字星のα・β、ケンタウルス座のα・β、エリダヌス座のアケルナルの5つの一等星が見えます。南十字星が南半球の星だと思っていらっしゃる方はびっくりします。それに街明かりが少ないのもいいですね」
設備の良さ=沖縄・九州で最大の105センチ反射望遠鏡がある。
「たとえばケンタウルスA(ケンタウルス座にある楕円銀河)は高度が低く、国内で、口径1メートル以上の天体望遠鏡で撮影できたのは初めてです」
2011年に放映されたTBS系列「奇跡ゲッターブットバス」で石垣島天文台は、天文学者が一番きれいと思う星空スポット1位に選ばれ、日本三選星名所の認定証が石垣市観光交流協会に贈られた。
石垣島天文台の活動は大きく分けて3つあるという。
広報・普及活動
月・火の休館日以外の毎日(開館10時~17時)15時から30分間4D2U(四次元デジタル宇宙・星空学びの部屋)、土・日・祝日には天体観望会(20時~20時半、21時~21時半2回)がおこなわれる。天体観望会は八重山星の会がおこなっている。4D2Uと天体観望会は予約が必要だが、施設見学は自由。入館料無料。
南の島の星まつりはすっかり島の名物行事として定着した。
教育的活動
児童・生徒・大学生の観測実習や団体見学を受け付けている。また2013年に国際天文学連合に承認された小惑星「やいま」は、2008年に高校生が新天体を探す企画で見つけ申請登録したものである。
「太陽と反対側の場所が見つかりやすいのですが、暗くて位置を変えながら移動する天体をずっと観測し、未知の小惑星かどうかインターネットで調べて、それから新発見ではないかと報告する。現在50万程度の小惑星の軌道が確定していますが、いまだに20万以上の軌道が未確定なんです」
観測研究
緯度が南にあるので黄道が高くなり太陽系天体の観測に有利。太陽系天体観測と突発天体(急激に増光や減光するなど突発的に示す天体)の研究が中心である。
主な研究成果を3つ。
2007年10月=ホームズ彗星の大アウトバースト現象を捉えた。放出された塵の量やバースト原因について制限があたえられた。
「歴史的に二度とないかもしれない大爆発現象に立ち会うことができた非常に貴重な成果。開設翌年のことで、石垣島天文台ができたからこその成果です」
2010年12月=小惑星のアウトバースト現象を捉えた。衝突した小天体のサイズや軌道、衝突日を解明した。
「小さな惑星が尾をたなびかせているという報告があり3か月近く観測。その結果、100キロくらいの小惑星に、数10メートルくらいの小さな天体がぶつかっておこった塵の広がりであると結論づけることができました。尾の変化を長期間観測することによってしかわからない我々の研究グループの研究成果です」
2013年4月=観測史上最大級のガンマ線バーストの共同観測。これまでにない精度で放射エネルギーの時間変化が明らかになった。
「世界的な観測の研究グループの一員として参加し一部われわれのデータも貢献しています。ここを代表する成果のひとつですね」
石垣島天文台の現在の職員は花山さんを含めて3人。繁忙期には5人になることも。
最後に花山さんのプライベートについても聞いた。どうしてここで働くことになったのか、八重山のことをどう思っているのか。いやな顔せず応じてくれた。感謝。
花山秀和さんは
1977年福岡県飯塚市の生まれ。地元の県立嘉穂高校を卒業後東京に進学。
「図書館で図鑑や本を見ているうちに天体に興味を持って、高校では地学部(天文部はなかった)に入り文化祭でプラネタリウムの解説をしたり、九州工業大学の天文部と合宿をしたり星を見に一緒に連れて行ってもらったりしました」
早稲田大学理工学部物理学科卒。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程修了。同博士課程にて博士号取得。
「三鷹の国立天文台の理論研究部で天体の爆発現象についてスーパーコンピュータを使って研究していました」
2009年より石垣島天文台に研究員として着任。2014年より同専門研究職員、2016年より同副所長。
なぜ石垣島へ?
「観測研究にも関心がありましたので、石垣島天文台の募集に応募しました。こちらにきて本格的に取り組むことになりました。東京では天の川を見ようと思ったら奥多摩や桧原村まで行きます。石垣島は街なかでも電気を消せば天の川が見える。自然が身近で環境がいい。しかも、街に近くて便利でもある。非常に魅力的ですね」
研究にスパコンがなくても大丈夫ですか?
「理論的な研究は場所を選らばずにすることができます。今では自分がもっているパソコンでもできますので、そこは細々と続けています」
ここでの暮らしはどうですか?
「小さい頃に思っていた、こういうふうに生きていけたらいいなというのが、ありがたいことにここでできています。星空を眺めながら宇宙について考える。職場環境的にも研究環境的にもありがたいなと思っています」
「自然に囲まれて、温かい人たちに囲まれて……。自然は目のあたりにするだけで、その場にいるだけで感動したり発見できたりするのだと石垣島に来て体験しました」
「星の会の人に連れて行ってもらって釣りが趣味になりました。伊野田漁港でミジュンを釣って、唐揚げにしてつまみにする、最高ですね。最近は子どもができて育児に専念です。なかなか行けません」