10月15日午後4時10分から石垣市民会館中ホールで水共生学セミナーが開催された。
会場には約60人の聴衆が「水・ヒト・生き物の営みが共生する石垣島を目指して」というテーマで、水共生学プロジェクトの紹介と4人から話題提供が行われ、最後にこの日の午後に高校生対象で行われた水共生学未来シナリオワークショップの報告が実施された。
このセミナーは2023年2月に「石垣島をめぐる水共生学」と題して第1回目が開催されており、水を取り巻く環境と人と島に生息する多様な生物が持続的に共生する世界を実現することを目的に研究が、進められている。
セミナーの主催は科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「ゆらぎの場としての水循環システムの動態的解明による水共生学の創生」とされており、石垣市と熱研(国立研究開発法人国際農林水産研究センター:通称ジルカス)が共催となり、実施されている。
開会の挨拶では、石垣市農林水産商工部農政経済課の松川秀樹課長が「テーマである水共生学は、水環境を地球圏、生物圏、人間圏の圏域の『せめぎあい』からなる『ゆらぎ』を、水循環システムとしてとらえ、3つの圏域のバランスの歴史的変遷、現状の動態を解明し、地域の実態に即した水環境の社会的課題解決の道筋を探り、将来像を提案することを主目的としている」と述べ、石垣島での実態に関して「かんばつや観光開発による水不足や森林減少、鳥獣被害の懸念についても、水共生学の体系を活用して島の未来について共に考える場になればと期待している」と述べていた。
このあと水共生学のプロジェクトの紹介が水共生学代表として荒谷邦雄氏(九州大学大学院比較社会文化研究院)からおこなわれ、水の循環を利用する地球圏、生物圏、人間圏は、持続可能なバランスで利用することが求められるが、そのバランスが崩れると危機的となる。日本全体の1%も満たない面積の沖縄では、昆虫の種の数は、日本全体から琉球列島では25%もあり、生物多様性に優れている。今も新種が発見される状況ながら、2007年から2014年で、特に水生昆虫の絶滅危惧種が倍増しており、急激な変化が起こっているとして、これを打開する水循環システムの持続可能なバランスをどう生み出すか。そこでの水共生学の重要性を述べていた。
このあと話題提供として管浩伸氏による「サンゴ礁の自然とリゾート開発~名蔵湾について考える~」、嶋田奈保穂子氏による「沖縄諸島の水環境知から学び合う試み ~東チモールの現状と課題~」、大澤和敏氏による「陸と海とのつながり」、安西俊彦氏による「熱研の未来への取り組み~農業の発展と環境保全が両立する資源循環システムの開発~」が、各約15分ほどの時間で講演があった。
最後には、この日、セミナー開催前に実施された有識者と高校生ら20人による「水共生学未来シナリオワークショップ」の模様が紹介され、高校生らに有意義な時間が提供できたことが報告されていた。
<記者私見>
水共生学と、漢字で表記しても、「みずきょうせい」なのか「すいきょうせい」なのか。また、水と共生という感覚が、一般的に理解可能かなど、どこか造語観が強すぎて、頭に入ってこないのは記者だけなのか。
グラフィックファシリティーなる横文字で、高校生らのワークショップが説明されても、意味は不明。時間に追われて早口に話される、きっちり整理された内容の話題は、はたして初見の人には、どれだけ理解できるか。時間がなく質疑もなかったのは、あの話題となった時間制限の会見に似て残念。どんな疑問がでるかも想定できる講演こそ、?み砕かれたものにできた証となるはず。
記者としては、於茂登山系と名蔵湾がつながり、そこでダイナミックな水の循環を生み出し、豊かな生物相を維持する菅氏の発表には、心打つものがあった。
具体的にこのひとくくりの自然のありようを、もっと数多くのポイントで示して、守るべき自然が、どう維持され、どう危険になる可能性を持つか、具体的に論議することが、島の現状を守ることになるはず。
石垣市が本腰をあげて、島の観光開発の過剰さへの危惧を、心配するなら、まず土地の農振除外ラッシュを止め、水の保水力を維持するための山のありようを監視してほしい。
温帯とは違う、亜熱帯の植物相の特殊性を研究・発表する機関を、熱研に作ってほしいところだ。
熱研は途上国支援でありながら、生産効率や経済活動に偏重した一般的な観点に依存している。途上国の持つ独自な気候・文化に依拠してはじめて、持続力が生まれるはず。
何事も効率イコール利権に動く企業の匂いを、年を重ねると感じがちとなる。
その環境への配慮をいかに高度化させ、自然にやさしい持続可能な開発を編み出すか。国土交通省が環境省のお墨付きを得なければ、開発はできない時代が、次の世界であるはずなのに、まだまだ遠いのは、実に残念。
ホモサピエンスが宇宙に乗り出すレベルにいく以上、土地の利権に走るか、人間にとってベストな環境を土地に見いだすか。発想の転換が待たれなければ、平和は来ない。
そこは次世代にまかすしかないのか。
(流杉一行)