木工芸店「むら工芸」の主任彫刻家として、家具や木工品の制作を行っている愛知県出身の都築康孝さん。この度チェーンソーで制作した作品「MUD CRAB」(ノコギリガザミ)で、第65回沖展・彫刻部門の沖展賞を受賞した。
小さい頃から海の近くで育ち、父や祖父と一緒にカニを捕って食べるということを、遊びとして行っていたという都築さん。昔テレビで観たマングローブ林に生息するノコギリガザミに衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えているという。八重山に移り住んですぐ西表島でカヌーのガイドとして働き始めた。「八重山に来た当時は全く考えていなかったのですが、今考えると無意識のうちにノコギリガザミを求めていたのかもしれません」と八重山に来たきっかけを話す。
むら工芸で働き始めた当時、都築さんは木工に関しては全くの素人で、親方の古村茂さんから技術を一から教わった。今では都築さんが制作だけでなく、新商品の企画や営業まで担っている。「木を扱っていると、やっぱり八重山は豊かだなと思うんです。台風などで倒れた木で僕らが家具や木工品を造ることで、使う人は八重山の木が上等なんだということを知ることができる。そうやって八重山に住む人が木を大切にするきっかけになれば」と話す。
チェーンソーアートを始めたのは2年前。世界チャンピオンの城所ケイジさんの作品に出会ったことがきっかけだった。それからすぐにチェーンソーアートのDVDを手に入れ、関連本も日本語で書かれたものが少なかったため洋書を見ながら制作を始めた。沖展への応募は今年で2回目で、昨年の奨励賞に続き今年こそは沖展賞を狙いにいったという。題材はずっと心の中にあったノコギリガザミ。大きさはたたみ一畳分にもなり、近くで見ると圧倒される。実際に捕ったガザミを見ながら、制作には約3ヶ月を要したという。
そんな都築さんに今後の展望を聞いてみた。「今は造り続けていきたいということしか考えてないです。毎日が充実していますし、自分は本当に木が好きなんだと思います」と控えめに話しながらも、「いつかは自分がこれからの若い子たちに技術を伝えていくことができれば」と話した。
(情報やいま2013年4月号より)