てぃんがーら輝く、島の星空

八重山の夏の夜、北から南にかけて天の川があらわれる。方言で天の川を「てぃんがーら」と言い、手が届きそうなその銀河の光に島は包まれる。暦が伝わる以前から、島人は1年を星に学び、暮らしの中から唄や民話が生まれた。
受け継がれてきた島の星文化、そして日本が誇る世界屈指の島の星空に、新たな物語が生まれ始めている。

波照間島|矢口清貴

 波照間島を訪れる目的には、『日本最南端に行きたい』、『波照間ブルーのニシ浜で泳ぎたい』などがある。中でも、『星空』を目的に挙げる旅人も多い。新月の夜に合わせて星を見ることばかりを考えていて、せっかく買った水着を忘れてしまった人もいるほどだ。そんな圧倒的な星空を眺めている時のエピソードをひとつ。
星が多すぎて、メジャーな星座が分からない
「ねぇ、あのぼんやりとした雲、邪魔なんだけど。誰かどけてー!」(女)。「いや…あれは天の川だから…」(男)。
 自分の影が追いかけてくるような満月の月明かりも素敵だけれど、やはり星を見るならば月の影響が少ない暗い夜がオススメだ。懐中電灯を持って、さとうきび畑の農道から空を見上げれば、流れ星や人工衛星も見つけることができるだろう。日常から離れた時こそ、はるか彼方の星からやっと届く光を見て、自分が地球という星の果ての島にいることを想う。
 右の写真は『“マブイ(魂)”を星になぞらえて、マブイが灯台を廻る』魂の輪廻をテーマにしたものだ。この波照間島灯台を撮った2006年7月時点では、サーチライトのように灯台の光がくるくると回っていた。真っ暗な中、よく見えないファインダーで構図を決め(昼間にロケハンした方がよい)、ケーブルレリーズでシャッターを切った。感度100のポジフィルムで段階露光を6分・12分・24分。シャッターが開いている間に、軽トラが通り過ぎて、もう一度やり直したのを思い出す。今では灯台の光源はLED化され、回るのではなく、細かく点滅する光になった。写真は星の軌跡を写すだけでなく、島の変化も記録するのだ。

矢口 清貴(ヤグチ キヨタカ)
1978年生まれ、兵庫県出身、東京在住。
明治大学理工学部建築学科卒。
主に沖縄・八重山を舞台に、眼には見えない世界、人々の営みを追い続けている。
一級建築士。雑誌アサヒカメラ・日本カメラ等で八重山についての写真掲載。日本写真芸術学会奨励など受賞多数。

写真集「マブイ 魂は廻る」
八重山諸島に魅了された気鋭の写真家がついに捉えた美しくも不思議な世界。これまでの写真集には見られない八重山がここにある!
著者:矢口清貴  発行所:(株)窓社
オールモノクロ60ページ、
上製本、大型本(263×263mm)。
発売日:2014年7月17日
取り扱い店舗(石垣島):タウンパルやまだ、ブックスきょうはんやいま店
定価:3,024円(税抜2,800円)

石垣島天文台 国立天文台


 九州・沖縄では最大口径105センチメートルの光学・赤外線反射式望遠鏡「むりかぶし望遠鏡」を備えている石垣島天文台。2006年の開設以来、想像以上に石垣島が星の観測に適している場所だということがわかってきた。
  星の研究者が石垣島天文台の望遠鏡を覗くと、みんな口を揃えて「星が止まっている」と言うそうだ。本州では、星は川底の石を見るように揺れているのが一般的。それは偏西風の影響で大気がゆらいでいるためで、それに比べて石垣島は大気のゆらぎの影響を受けにくい。天体を観測するのに日本で最も適したクリアな空があるというわけだ。
  さらに研究者にとっての利点は夜明けが遅いこと。遠くの銀河でガンマー線バーストと呼ばれる星の爆発が起こると、それを地球を周る衛星がキャッチして、地上に通報される。そして放射線のあとに残る光を観測するように世界中の天文台に連絡がいくという。しかし光が届く頃には東京などでは夜が明けているが、石垣島はまだ暗い。石垣島天文台では、新天体を日本でいち早く観測できるというわけだ。そのようにして得た研究結果は、アメリカの雑誌『サイエンス』に論文が掲載されるなど、石垣島が天文学の研究に欠かせない場所になってきた。

4D2U −国立天文台4次元デジタル宇宙の上映−


 4D2Uとは、国立天文台が研究した最新の観測データや理論計算を元に、宇宙の構造の進化を最先端のスーパーコンピュータで描き出した4次元デジタル宇宙映像のこと。石垣島天文台に併設されている星空学びの部屋では、200インチの平面スクリーンを、レンズが液晶になっているアクティブシャッター方式の3Dメガネで見ることで、部屋にいながら宇宙の果てまで体験することができる。また解説員と対話式で楽しむことができ、例えば「土星の輪が見たい!」「宇宙の始まりを知りたい!」など要望に応じて対応してくれる。毎回解説員がついて4D2Uを上映しているのは、日本では石垣島天文台だけだ。
休館日以外は基本的に毎日、15:00~15:30星空学びの部屋にて開催している。参加費は無料だが要予約(石垣島天文台:0980-88-0013)。

 なお、石垣島天文台では、土日、祝日の夜に、20:20~20:50、21:20~21:50と2回の天体観望会を行っており、今年の夏の見頃は土星。夜の8時~9時の観望会の時間に合わせて見ることができる。そのほか、星が集合した球状星団や、恒星が死んでガスになった惑星状星雲なども見ることができる。こちらも参加費は無料だが要予約(石垣島天文台:0980-88-0013)。

VERA石垣島観測局


 VERA石垣島観測局では、小笠原諸島と鹿児島県、岩手県の4つの電波望遠鏡を使い、銀河系の立体地図をつくる「VERA計画」が現在進行中だ。この10年で、銀河の中心から約3万光年の場所にあるといわれていた太陽系が、実際には2万6千光年の距離にあるということがわかったり、秒速220キロで銀河の中を動いているといわれていた太陽は、実は240キロで動いているということなどがVERAの研究でわかってきた。世界的に見ても銀河系の研究に新しいデータが提供されている。
  またVERAは毎晩ライトアップされており、構内も自由に入ることができる。石垣島のナイトスポットとしても人気の場所だ。

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