小浜島細崎 海人後継者奮闘記

小浜島の西の端にある細崎は海人の集落。浜からはすぐ目の前に西表島が見える。主に糸満から移り住んだ人たちの集落で、今年でちょうど入植100年となった。現在の細崎集落では30世帯ほどが生活をしている。海人は約10人。
 石垣島では、旦那さんが海に出て、奥さんはサシミ屋を営んでいることが多いが、小浜島には昔から魚屋がなく、セリがあるわけでもない。現在は、冬場は漁獲の9割が氷詰めして石垣島に送られ、そこからさらに沖縄本島にいきセリにかけられている。島内のリゾートホテル、居酒屋などに卸してもいるが、島内消費はまだまだだという。遠くに行けば行くほどもちろん、コストがかかる。輸送代や梱包代などが引かれ、セリ値の3割ほどが差し引かれてしまう。石垣のセリに出すにも問題がある。石垣の海人たちはその朝に獲れたばかりの魚をセリに出せるが、小浜からだとどうしても、その前の日のものになってしまう。つまり、新鮮さで負けてしまう。離島ゆえ、流通ルートなど課題が山積み。以前よりやはり魚が少なく、小さくなり、値段も落ちている今、海人たちは様々な事に試行錯誤している。

●後継者不足
 細崎の海人はふたりを除くと、みなさん50代、60代の方々で、30代、40代の方がいない。以前はいたが、安定した収入が得られないため転職したりと、いなくなってしまった。職の雇用がそこまであるわけでもなく、島に戻る若者も少ないため、後継者を確保する事が一番の課題になっている。海人は夏場は赤字に近いという。魚が減っている上に夏場は魚がとても弱りやすいので、冬場のようには獲れない。そして、魚の値段も下がる一方。
●島内消費をもっと増やしたい
 小浜島内の居酒屋でも、魚貝類を石垣からとっている店も少なくない。やはり石垣のほうが海人も獲れる量も多く、欲しいものが手に入るからだ。だが、小浜の人たちから、「島で獲れた魚を食べたい」という声も聞く。「小浜でどんな魚が獲れるのかわからない」という声も。しかし、そのルートが確立できていない。
 去年試験的に、サシミや切り身にして島内の商店で販売した事があったが、地元の人たちにとても好評だったという。今は手がまわらなくてできていないが、将来的には、直売所をもちたいと思っている。
●新しい試み
「細崎ま~る新鮮隊」
 上の写真にある、「細崎ま?る新鮮隊」とは、魚を獲って売るだけではなく、活性化に向けての新しい取り組みを行っていくグループの名称。ふたりを筆頭に、隊員として細崎の方々が名を連ねる。「活かそう! 守ろう! 海人の宝!」のテーマのもとに、加工品の販売に向け開発したり、地元小中学校の生徒や観光客を対象とした体験の受け入れをし、島内消費や雇用を図り、人が帰ってこれる環境づくりを目指している。さらには、その体験スタッフから、漁業従事者へと繋がっていってほしいと考えている。「ま?る」はゆいまーるのまーる。そして、沖縄県の水産普及員の方が1ヶ月に1度ほど小浜を訪れ、アドバイスをもらう。ギーラ(シャコ貝)の養殖もそのうちのひとつで今年試験的に始めている。
●設備が整っていない
 製氷機もなく、漁から戻るたびに凍らせておいた氷を自分たちで砕いてつかっている。冷蔵庫、冷凍庫も、作業台も充分ではない。加工場も、現在は個人所有のものをつかっているため、新鮮隊での加工場をもつことは必至だと考えている。
●海人体験をしてもらって身近なものに
 すでに小浜小中学校の校外授業では、船に乗って漁に出かけ海人体験をしたり、タラシアギー(かまぼこ)を作るなど、体験を始めている。タラシアギーはもちろん、自分たちが獲ってきた魚をつかい、アーサ、モズクなど細崎でとれたものをふんだんに使う。そういった体験から、地元の海、漁業をより身近に感じてもらう。

ジャコの追い込み漁へ

 7月7日朝7時、今年3度目で最後となるジャコ(グルクンの稚魚)の追い込み漁に出発。誠さん、洋一さんと先輩海人の方々。
 細崎港から船で10分ほどのポイントで、6人で網を広げ四方から追い込む漁法でジャコを100kg近く揚げた。本当はもっと獲れるが、島内で売れる量を考えて、少し抑えて水揚げした。この前のジャコ漁では150kgほどを揚げた。
 ジャコは6~7月に獲れるが、今年は実に4年ぶり。小浜周辺では、この3年はなぜかとても少なかったためジャコ漁はしなかった。今年獲れた時は本当に嬉しかったという。ジャコは今年はとても多いが、それをエサにしているカツオは少ないという。
スルシカーと呼ばれる竿にビニール紐をつけたものをつかい、魚を追い込んでいく。

素潜り漁に出発!

 7月8日朝、フィリピン近くに発生した熱帯低気圧の影響で、この時期にしては珍しい北風が吹いて時化ている。8時すぎ、風がおさまってきて漁に出航。今日は誠さん、洋一さん、清一さんの3人。素潜りで魚を狙う。
フーカー式と呼ばれる、簡単なマスクを付け水上からホース(黄色いロープのようなもの)で空気が供給される装置を着けて海の中へ。ウェットスーツを着けていると浮いてきてしまうので、腰のあたりに10kgほどのウェイトをつけて潜水する。
 ターゲットによって、イーグンか水中銃かを使いわける。イーグンにも刃の部分がまっすぐなもの、曲がっているものなど種類がいくつもあり、瞬時に判断して使いこなしている。獲った魚は売りものなのでなるべく傷をつけないようにしないとならない。突く場所によって捕まえにくくなってしまうこともある。

 清一さんが船を操縦しながら、「あっちに泳いでごらん」、「このあたりにいるはずさぁ」というところにふたりが飛び込み、潜る。必ず当たるという。何百とある魚のポイントや棲家を把握している。ふたりは数をこなして、教わって覚えていく。
この日の収穫は、チヌマン、イラブチャー、アバサーなど。チヌマンは小浜島内で人気が高い魚。収穫のほとんどは、船積みをし八重山漁協に送られたあと、県漁連にいき、沖縄本島でセリにかけられる。

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