八重山の野鳥 その撮り方と描き方

青く澄んだ空に悠然と翔ぶカンムリワシ。鷲の一条の翼帯は、太陽の光で透けて見え、まるで太陽の申し子のように思え、脳裏を「鷲の鳥節」がよぎったのです。
 

ひと味違う八重山の野鳥たち


リュウキュウコノハズク[全長22cm]コホ、コホと鳴く小さなフクロウの仲間

 亜熱帯気候の八重山は、日本で有数の渡りの中継地に位置する。本土で夏鳥と言われるサシバやノビタキ、アマサギ、ツバメなどが八重山では冬鳥として越冬する。また、八重山が北限になっている鳥も何種かいる。例えば、カンムリワシ、ズグロミゾゴイ、キンバト、オオクイナ(宮古島も含む)などである。八重山で繁殖する陸鳥の多くが固有の亜種になっている。シジュウカラ(イシガキシジュウカラ)、ヒヨドリ(イシガキヒヨドリ)、カラスバト(ヨナグニカラスバト)といった具合だ。また琉球列島の固有の亜種には、キジバト(リュウキュウキジバト)、アカショウビン(リュウキュウアカショウビン)などがある。これらの亜種は、本土産に較べ黒っぽかったり、小型だったりと特徴が異なったりしてくる。
 一方、海鳥も何種か繁殖している。西表島の南西に位置する中御神島は、セグロアジサシの集団繁殖地として有名である。他には、オオミズナギドリ、クロアジサシ、カツオドリなどが繁殖している。海上ではアカオネッタイチョウなど南方系の海鳥が見られる。
 台湾やフィリピンに近いことから迷鳥も多く、ミナミメンフクロウやアオショウビンなど初記録の鳥が観察されバードウォッチャーのあこがれの場所になっている。


ヤツガシラ[全長27cm]春に多く見られる

リュウキュウキビタキ[全長13.5cm]亜種。背面の濃緑と大きな白斑が特徴

ホオジロハクセキレイ[全長21cm]亜種。この他にも4種のハクセキレイが見られる

リュウキュウアカショウビン[全長27cm]亜種。大きなくちばしと赤い色が特徴

八重山の野鳥ベスト5紹介

八重山の野鳥ベスト1 『ズグロミゾゴイ』

 好物は、ミミズである。当然ミミズの多いところが彼らの生息場所だ。パインやサトウキビの耕作の減少に比して畜産が増えてきた。この牛舎から出るふん捨て場が絶好のエサ場になっている。この鳥のエサ捕りはすごい。地中にいるミミズの動きを察し、太くて長いくちばしで土に差し込んで捕らえるのである。我々人間から思うとまさに”神技“的なものだ。捕らえてからが、また、おもしろい。途中で切れないように時間をかけ少しずつ引っ張り出していくのである。まるでミミズと綱引きでもしているかのようである。ミミズを食べているせいで、彼らのくちばしはいつも汚れている。(失礼) いつも地上を歩いている姿が見られるが、飛んだ姿はまた美しい。

八重山の野鳥ベスト2 『キンバト』

 実に南国的な極彩色をしている。背面の緑色、頭の灰色と白のアイライン、腹部のワインレッド、何と言っても、くちばしと脚の赤色が印象的である。日本産のハトの中では一番小さく、森に棲み、めったに開けた場所には出ない。森の中で出会うときは、突然である。目の前を電光石火のごとく猛スピードで直線的に飛び去るのである。それにしても、よく木にぶつからないものだと感心させられる。めったに出会うことのできないこのキンバトは、バンナ岳北側の山麓にある竹島農園では毎日見ることができる。もう25年以上も前からニワトリのエサに餌付いている。国の天然記念物。

八重山の野鳥ベスト3 『オオクイナ』

 あたりが暗くなると森の奥から「ファー」と鳴く声を聞くことができる。声の主は、オオクイナである。
 このオオクイナの方言名は「ファードル」と言う。”ファー“とは、八重山の方言で”子供“という意味。
 オオ=大きいという意味から想像すると体が大きいものと思うが、実際は、あのシロハラクイナよりも小さいのである。いつも静かに地上を歩き回っているので姿を見る機会は少ない。

写真を楽しむ その撮り方

いいなと思う瞬間を狙うのがコツ
 いざ写真を撮ろうと思うと、あれこれ写真集や雑誌を見て「これくらい平気に撮れるゾ」と思うものです。しかし、いくらオートフォーカス(自動焦点)や自動露出になったとはいえ、シャッターを押し、被写体を写し込むのは、カメラマン本人なんだよね。簡単に撮れないことに気づくだろう。出来上がってから「なぜこんなに鳥が小さいの」ってな訳になるのがせきのやまです。実はファインダーを覗くと、四角い画面に切り取られた光景が見えます。仮に鳥にピントを合わせたとすると、1点に集中してしまうので周りが見えず、意識の中で鳥が大きくなってしまうからです。それに写すときは、喜びや興奮が入り誇張されるからでしょう。私は、写真を撮る瞬間はできるだけ冷静にするように心掛けています。フレーミングや構図、それに背景を見ながら鳥のしぐさやおもしろい行動など、シャッターチャンスを待つという姿勢がポイントでしょう。
 野鳥の撮影をするには、500ミリや600ミリの望遠レンズが必要になります。これは高価なもので、そうたやすく手に入るものではありません。自分の”ふところ“と相談して決めたいですね。手軽に始めるには、もう少し短い300ミリクラスのレンズでもいいと思います。これに、テレコンバージョンレンズ(×1.4倍)を買うといいでしょう。遠くの鳥を撮る場合やもっとアップで撮りたいとき便利です。また、夜間撮影はこの300ミリクラスで十分です。何せ我々人間より、鳥や生き物の方が暗闇でしっかりものが見えるのですから。彼らもよく知っているのか、近づいても逃げずに平気でいることが多いのです。
 カメラを始めたころは、何かと失敗がつきものです。私も何度か失敗をした経験があります。写真を始めてまもなくの頃のことです。西表島でアダンの木に止まるカンムリワシの幼鳥に出会いました。光や雰囲気も最高でした。急いで車を止め、めったにないチャンスを逃さぬよう、まずフィルムを入れ替え準備しました。はやる気持ちを押さえながら、500ミリレンズを担ぎ畦道を歩きながらゆっくりと近づき撮影をしました。「カシャ、カシャ」という心地よいシャッター音に満足し、もう1歩前へと思い動いた瞬間、カンムリワシは飛び去ったのです。「ヤッター」と声を上げ喜んだのは束の間、なんとカウンターの数字がありえない数になっていたのです。もしやと思い、そして裏蓋を開けると、フィルムがうまく差し込まれていなかったのです。…こんな失敗は昔話で、皆さんの使っている今のカメラではまずないことです。ご安心を。

絵を楽しむ その描き方

基本は心-鳥が好きだから描きたい
 私は、長い間グラフィックデザイナーとして仕事をしてきました。そのせいで絵との関わりは、人一倍多い環境に居たと思います。元来絵が好きで、バードウォッチングを始めると同時に、鳥を描き出したのです。初めのうちは本物そっくりの絵、つまりリアルイラストレーションに没頭していました。理由は、鳥の持つ色彩構成に魅了されたからです。誰しも何枚も描くうちにうまくなるものです。私も気がつくと図鑑の仕事をしている身になったという訳です。
 趣味であると考えれば、仕事でない分気楽に描いていけます。では、どうすればうまく描けるか簡単に説明しましょう。
 まず鳥の全体を把握する。例えば、首が長いとか、くちばしが大きいとかです。次は下描きに入ります。ここでは、大ざっぱに楕円で頭の部分、胴体部分を描き、くちばしや脚がどの位置からどんな風に出ているのか直線的に描きます。こうした形に本物の輪郭をていねいに描きます。その後、目の位置や羽根の重なり具合などをしっかり写し取ります。こうして下絵ができ、止まり木や背景を描き加えれば下絵が完成となります。いよいよ着色です。大別すると二つの描き方があります。透明水彩で何度も重ね色を濃くする方法と、不透明絵の具(油絵の具のようなものなど)で、最初からそのものの色を塗り込む方法があります。これは好みの問題ですから好きな技法を選べばいいと思います。
 絵を楽しむということで言えば、最近私の描くスタイルもお勧めです。リアルに描くことは正確なデッサン力が求められますが、これは、そうたやすく習得できるものではなく、毎日のトレーニングが必要となります。デフォルメは飽きやすい人や思いつきで描きたい人にはいいかと思います。誰でもすぐ始められますし、へたでも個性的と見られるということです。
 私が一番気を付けている点をご紹介しましょう。まずは、鳥たちが好きという気持ちで鳥に接すること。そうすれば、鳥の仕草や表情をうまく捉えることができると思います。これを強調してあげればいいのです。
 技法的には、石の素材にはアクリル絵の具を、紙には色えんぴつを使用している。子どもたちの持ってる色えんぴつと同じですよ。楽しく描いてみましょう。

プロフィール 本若博次(もとわか ひろじ)

1954年(昭和29年)石垣市大浜生まれ。現在、名古屋在住。名古屋のデザイン専門学校を卒業後、グラフィックデザイナーとしてデザイン会社勤務を経て、デザイン専門学校で約12年専任講師を務める。1996年より、野鳥を中心とした自然写真家およびイラストレーターとして独立。
 ◆受賞=二科展デザイン部門入選2回。富士フォトコンテストネイチャー部門銅賞。ニッコールフォトコンテスト第3部特選、他多数。
 ◆共・著書=「ヒバリ」「自然観察ツバメ」(偕成社)、他多数。
 ◆個展=1988年、90年、92~97年-名古屋。1996年、97年-石垣。1997年-福岡。1998年-東京(富士フォトサロン銀座)。
 ◆所属=日本写真家協会、日本グラフィックデザイナー協会、日本野鳥の会

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