日本最南端の登り窯に火入れ

日本最南端の登り窯に火入れ

 薪を焚いてつくる焼物の窯は、登り窯と穴窯。中でも大型の登り窯は、焼物づくりには憧れの道具。八重山には一基だけ、登り窯がある。焼物はガス窯、灯油窯、電気窯と、それぞれ違う燃料の窯があるが、薪による炎が生み出す焼物は、灰をかぶることで、計算できない絵柄が生まれる。そこに独特の味わいや風格が生まれ、人智を越えた焼き物最大の魅力となる。
 11月14日午前9時頃、石垣島に唯一築窯されている登り窯に火が入れられた。これは、石垣島桴海地区の山原(ヤマバレー)で川平焼 凜火(りんか)を営む渡辺裕さん(44)(神奈川県出身)の登り窯で、全長約10m、高さ2m、横は3mで、3つの部屋に区切られており、50時間連続して薪で窯をたいて、作品を生み出す。八重山に自作の穴窯を使って焼き物を作る人は幾人か有るも、巨大な登り窯を持つのはこの渡辺さんだけ。読谷で3年師事して、2004年から石垣で一乗焼の石垣用介氏からこの窯を譲り受け、奮闘の11年。「窯に教えられながら来ました」と振り返る。毎年、薪を確保して数度登り窯での焼き物に取り組んできた。薪の確保が難題だけに、通常はガス窯を使用して作陶に取り組んでいる。年に1・2度のペースで、薪での登り窯を使ってきた氏は「やはり薪が生み出す、天然の炎による焼き物が、一番楽しい」と、今年もそのできばえに思いをはせる。形を大事にしている渡辺さん。「凜としたしなやかな形を求めて凜火と名付けた」と、川平焼「凜火」の命名由来を説明。「土が持つ特性を生かした形につくり、ものづくりをしていきたい」という渡辺さん。目下、石垣島の土は、皆宿の土しか手に入らなくなっているのを憂えている。「石垣島の磁気土も使えなくなっていて、その技術を持つ島出身者が、焼き物を作れなくなっていることも聞いています」と、多彩な土があるのに、島の土が一種類しか手にできないのがもったいないという。窯を譲り受けた後も親交を深めている最初の持ち主の石垣用介さんの作品もこの登り窯に入っているとのこと。昨年は、明石走学校の4年生の総合学習で、焼き物を学びに来た時、「普通に騒がしかった子供達が、登り窯を見るなり神妙に押し黙って、様子が違ってきたのを見て驚きました。子供達には何か感じるものがあるようです」と渡辺さん。子供には身近に憧れる土いじり。その延長にある焼き物の世界の巨大な窯は、子供達にはただならぬ存在感を植え付けるらしい。子供達の心に、インパクトをもたらすわかりやすい焼き物の窯は、日常でよくみる食器がどのように生まれてくるかを知る意味で、教育効果は抜群だという。「是非、教育に利用したいという学校が有れば協力したい」と、巨大な窯を教育にも生かしたいと、渡辺さんは述べていた。

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