小浜島の桟橋から息子と二人で海を眺めていた。どこの島でも見られるようになった円形の屋根とベンチのついた休憩所で、息子の廉太郎は缶コーラを時折口に運びながら、まるで何かを見つけるように海面へ視線を注いでいる。
ぼくはオリオンビールを二口呑んだきり、冷えていた缶の感触が徐々に薄れていくのを確かめるように握りつづけていた。目を閉じても強い陽差しは瞼の裏まで射抜いてくる。波の音が律動的に届く。じっと耳を澄ます。軽自動車の遠ざかる音が消えると波の音だけが残る。目を開けた。波間に硝子の破片のような小さな光が明滅している。隣の息子は相変わらず海へ顔を向けたままだった。
太古の昔より変わらずあったであろう風景を、ぼくも黙って見ていた。竹富島の西の砂浜が白い輪郭を刻んでいる。黒島は細長い島影だけが臨める。陽光を受ける海は黙々と波を作っては消す。ぼくの父も祖父も、またその父も祖父も目にしたであろう光景を、今息子が見ているのだと思うと、永遠という言葉が胸に貼りついてきた。永々と続いて行くことが永遠だと思っていたが、何も変わらず在ることもまた永遠なのだ。そんなぼくの思索を破るように、息子の明るい言葉がとんできた。
「お父さん、やっぱり今夜も肉がいいな」
思い切り顔をのけぞらして缶コーラを飲み干した息子が笑顔を向ける。
黙って海を見つづけながらも、頭の中では夜の食べ物をあれこれと思い巡らせていたのだと思うと、ぼくは笑い声をたてていた。息子が怪訝そうに聞く。
「今日もお肉じゃおかしいか?」
「そうじゃない」
ぼくがあわてて手を振って否定すると、まだたっぷりと残っていた缶ビールがこぼれて桟橋のコンクリートに斑な染みをつくる。
「だったらなぜ笑う」
息子の表情に怒りが少し混ざってくる。
「昔な、この海に特攻隊が不時着したと聞いたことがある。それを想像していたら、お前がいきなり肉が食べたいと言い出したからおかしくなったんだ」
すると今度は息子が笑い出した。