16 同じ時を生き抜くならば

プノンペンに降り立って1年が過ぎました。今日もこの街はあの日と同じように蒸し暑く、また泥臭くもあります。あの日選挙の後遺症で止まっていた工事現場の数々もみるみる再開し、この街にもずいぶんとスカイスクレーパーが増えてきました。これから10年で良くも悪くももっと増えていくことでしょう。八重山とプノンペンはよく似ています。泥臭さと時間の流れるスピード、楽天的でその日暮らしな(物質的に、あるいは精神的に)人々の多さでしょうか、そんなところが似ています。ただ発展途上国にも関わらず、カンボジアの方が沖縄に比べてもずいぶん進んでいてそのギャップこそが魅力的でたまらなかったりするのですが。うちなータイムに慣れている私からすればカンボジアのこのゆらりとした時間の感覚は許容範囲です。
 ここで自分の力を試したいという感情を覚えた時、私にしては珍しく勝算なんてものは全くありませんでした。いえそういえばいつだって勝算などなく、いけるという直感とそれに向けて努力を怠らない覚悟ばかりが私を支えてきたかもしれません。湧きあがった思いはただ一つ。一番脂の乗る人生において重要な三十代をどこで過ごしたいか。どこで過ごしたほうがその後の人生に花を添えるだろうか、それだけでした。八重山には十代から始まり人生の半分近くお世話になり、私のルーツである熊本は永遠に揺らがないナンバーワンの場所です。
 そんなプノンペンで秘密裏に温めてきたプロジェクトがいよいよ動き出しました。現在はオープンに向けて改装工事を始めたところ。友人達と共同でスケルトンの物件を借りたのは先月の事。居心地のいい隠れ家的なお店が少ないここプノンペンの新たな穴場となれるようこだわっていきます。ちなみに比較的格安に開業できると評判のカンボジアですが、今回の目標は5000ドル。面積が80平米あるのでかなり厳しいラインですができる限り手作りで進めます。実際いくらでカンボジアで開業できるのか、という実験も含んでいます。
 これから数か月このプロジェクトに労力をだいぶ注ぐことになるかと思いますがまた色々小ネタも出てくるでしょう。ゆるゆる感が共通している八重山と比較しつつ楽しみながらまた機会があればレポートすることにします。

崎枝 百合香

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