石垣島の観光ガイドブックなどを見ると、アンパルを野鳥の楽園などとして紹介しているものがあります。アンパルのイメージは野鳥と切っても切り離せない関係にあるようです。昔から地元の野鳥の会の活動も盛んだったこと、2005年に水鳥の生息地を保護するラムサール条約に登録されたことなどから、そんなイメージが定着したのかもしれません。しかし、アンパルの野鳥の飛来数は昔と比べるとかなり減ってしまったという声が聞こえてきます。現在でもアンパルは野鳥の楽園といえるのでしょうか。
今回は、日本野鳥の会八重山支部(現在は日本野鳥の会石垣島支部が活動)が2002
年に行ったアンパルの調査データ(環境省請負調査)を基に、アンパルの野鳥たちの特色について説明していきたいと思います。
(1)水鳥の生息数が少ない
年間を通して飛来数が多かったのは、冬期で一日に400羽前後、少なかった夏期で100羽前後、平均で一日約280羽の水鳥がアンパルを利用していました(図1)。水鳥の種類は年間を通して54種類が確認でき、カモ、シギ、チドリの仲間が多く、次いでクイナ、サギの仲間などとなっていました。この生息数は一日に数万羽の水鳥が飛来する日本の多くのラムサール条約登録湿地に比べるととても少ない数です。
(2)森林性の鳥が数多く生息
水鳥の数だけを見ると、決して多いとはいえないアンパルの野鳥たち。しかし、干潟内にはマングローブ林という森林があり、砂洲上には海岸林という森林があることから、森林性の野鳥たち(キンバト、リュウキュウコノハズク、アカショウビン、キビタキ、サンコウチョウなど)が多く確認できています。他の日本の湿地内の鳥類相とは大きく異なる特徴を有しています。
(3)多様な猛禽類が確認される
高次消費者である猛禽類の生息は、健全な自然度を計る指標とされますが、アンパルでは主に冬期、まとまった地域に9種類の猛禽類(図2)が確認されています。猛禽類の餌となる生き物が数多く生息していることがわかります。
(4)固有性のある種(亜種)、保護法関連記載種(亜種)が多い
島嶼に定着した生物の特徴でもありますが、野鳥に関しても移動の少ないものは、独自の進化を遂げた固有種(亜種)が多く認められます(図3)。また環境省のレッドデータブックや文化庁の天然記念物など保護法関連に記載されている種も目立ちます(図4)。アンパルはここでしか見られない固有性の高い野鳥、数が少ない貴重な野鳥が利用する大切な場所といえるのではないでしょうか。