15 波を待つ

一年も折り返し地点。目まぐるしく過ぎ行く日々を片目に振り返ると、昨年の今頃私は手探りのまま重大な決断をしたばかりでした。十数年暮らしたこの地から半歩下がることを決めて一年が経ちます。今私はカンボジアと西表島を2か月に一度ほど行き来しながら、これから10年・20年先のことを見据えて日々奮闘しています。生まれたころから当たり前だった、家畜との生活も泣く泣く断ち切り半年以上が過ぎました。元来相当なずぼらである私は、家畜という存在が手綱となり私の生活のすべてを掌っているものでした。待つ牛さんたちが居るから早起きをして肉体労働に勤しむ。待つ牛さんが居るから不摂生はしない、百姓の原点ともいうべき生活をコントロールしていた家畜の存在がないと朝も起きれなくなる始末で、本当に情けない限りです。
 ベトナムとカンボジアに初上陸して今月末で一年が経つのですが、まだ見ぬ土地にこんなに興奮したのは西表島行きを決めた時以来でした。だからこそ即決できたのかもしれません。可能性の塊、発展途上という悪女のような響き、自分の力で切り開いて生きたい私にとってはぴったりの地に思えたのです。今現在もその気持ちは変わっていませんし、プノンペンに降り立つ度、街を歩く度、なんてパワー溢れる場所だろうとゾクゾクするものです。
 そんなプノンペンで今私はじっと波を待っています。いただいた仕事を感謝してこなしながら、来るべき出番を待っています。まだ幕は上がっていません。食品関連の仕事を数件手掛けていますが、安定とは程遠い状態です。でも焦らずじっくり波を待つ。波が来るまでは信念も曲げない。待望のイオンモールもオープンし、さざ波は立っています。慌てて乗ろうとした人たちがちらほら見えます、でもまだ私は立ちません。いえ、立てません。
 日系企業の進出が目立ち始めたプノンペンは、ちゅらさんブーム直後の八重山によく似ています。私はあの時に焦って早く立ちすぎたため、波にのまれそうになりました。過去の経験とは人間を成長させるためにあるものです。足元は大丈夫か、周りに障害物はないか、目的はしっかりしているか…。第二ちゅらさんブーム(今の現状をそう呼ぶことにします)の様相伺わせる今の八重山の状況を、西表島とプノンペンからしっかりと見つめていこうと思います。

崎枝 百合香

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