第2回 美意識の違い

第2回 美意識の違い

なぜフランスでは音を立ててスープをすすると嫌われるか」
その前に「なぜ日本では音を立てて味噌汁をすすったりラーメンを食べたりするか」ということに付いて考察しましょう。
まだ脂身がジュージューいっている焼き立ての秋刀魚を味わって以来その味が忘れられなくなった殿様の話が「目黒の秋刀魚」です。
むかしから 日本の庶民は舌がやけどするくらい熱い出来立ての料理のおいしさを知っていたのです。 汁物は特にそうです。でも熱い汁物をそのまま口に入れるとやけどする恐れがあるのでそれを防ぐために冷たい空気と一緒に吸い込む方法を考えました。
当然のことですが汁物を空気と一緒に吸い込むと音がします。汁物が熱ければ熱いほど吸い込む音は大きくなります。 つまり、すする音が大きければ大きいほど汁物は熱くておいしいということになります。
それからは盛大に音を立てて食べることが熱々のおいしい料理を食べている証拠となり、逆に音を立てずに食べると 「なんだ、まずそうな食べ方しやがって」と嫌われるようになりました。ぬるい味噌汁を出す新婚の奥さんはすぐに離縁されました。今は どうか知らないが昔はそうでした。

さて、そこでフランスではどうなっているのかを考えましょう。
フランス人は日本人と比べて猫舌です。
正確な統計はまだ出ていないが本などにはそう書いてあり僕自身の体験からもそう言えます。
僕らがまだ新婚のころ、訪ねてきた義理の母に日本式のおいしいコーヒーを入れてあげようと思い、日本の喫茶店でやるように熱湯で温めたコーヒーカップに入れて出しました。
アチッ!とは言わなかったが義理の母は瞬時にコーヒーカップを口から離し、どうしてまだ熱いのですかと僕をキッと睨みました。
それ以来、義理の母は僕が入れる コーヒーを恐れるようになり、亡くなるまで二度とご所望することはありませんでした。
この体験から推察すると、フランスでは音を立ててスープをすすると「この野郎!俺をやけどさせるつもりか!」という意思表示になるようです。
怖いですね。

僕はこの問題の解釈を求めていろいろ訪ねたがいまだに満足できる解釈に出会えません。

与座 英信

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