巨樹・巨木との遭遇(29)

巨樹・巨木との遭遇(29)
巨樹・巨木との遭遇(29)

サガリバナ

 西表・元成屋の炭鉱跡の湿地で遭遇したサガリバナ(サガリバナ科)です。根元の幹周りは3メートル10センチ、樹高約12メートル。大小のひこばえが10株を数える巨木です。湿地を好む常緑の植物で、琉球(奄美大島・徳之島・沖縄島・宮古島・石垣島・西表島・与那国島)に自生し、台湾・中国大陸南部や旧世界の熱帯にも分布するようです。
 元成屋とは、船浮湾の北側に位置する一帯の称です。1885(明治18)年に始まった西表炭鉱のさきがけの地でもあります。写真のサガリバナが生える周辺には、炭鉱時代を物語る多数の空きビンや、食器片が至るところに散乱しています。
 さて、近年、サガリバナが脚光を浴びたのは、早朝に仲良川の川面を流れ下るテレビ報道がきっかけであったと記憶しています。夕刻に開花し、明け方までには落下するたった一夜の命と併せて、芳香を放つ可憐な花びらに多くの観光客が来島したようです。以来、石垣島でも開花期には、「闇夜の貴婦人」としての異名を持つサガリバナとの対面で話は持ちっきりです。
 ところで、意外や意外、一昔は猪垣として利用されたサガリバナです。挿し木が可能なことと、湿地を好むことで水田の周囲に打ち込めば、枯れることなく枝葉を伸ばし、いつまでも垣の役目を果たす有用樹木として利用されました。網取湾奥のアミヤ川周辺のウダラ田跡には、サガリバナ猪垣が今も残っています。
 今回は、西表炭鉱のさきがけの地・元成屋で遭遇したサガリバナでした。

松島 昭司

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