名蔵アンパルの動植物たちシリーズ(3)

名蔵アンパルの動植物たちシリーズ(3)
名蔵アンパルの動植物たちシリーズ(3)

マングローブの葉を食うカニたち

 アンパルのマングローブの葉を見ると、何者かが葉の縁をかじりとった痕に気付くことでしょう。これはキノボリベンケイガニの仕業かもしれません。このカニは昼の間巣穴に隠れていますが、夜になるとマングローブの幹を身軽にはい上り、緑の葉の上に陣取ると葉の縁をハサミでちぎり取っては口に運んでいます。
 緑の葉では光合成が行われていますが、中には黄色くなった葉もあります。マングローブは、身体にたまった塩や老廃物を黄色くなった葉という形で捨てるのです。木の根もとに落ちた黄色い葉を拾い集めて食べるカニもいます。ミナミアシハラガニや、アシハラガニモドキの仲間がそうです。
 これらのカニは地下に巣穴を掘り巡らすことによって、土の中の通気を良くしてマングローブが根を張る環境を良くしています。植物が食物をカニに与え、カニの存在が植物にとってもプラスとなるという、動物と植物の間で成立している双方が恩恵を被る共生関係を知るわかりやすい事例です。
 マングローブを眺めて、単に「海辺に生える変わった樹木だ、林だ」と思うにとどまらず、木々が生える場所には海辺だからこそカニのような生き物もいて、各々の活動が作用しあって「独特の生態系」が作られているということを理解するきっかけとなります。
 遠くアフリカのケニアやオーストラリアのマングローブ林でも、こうしたカニたちが同じ暮らしを営んでいます。そのことを知れば、アジアからインド洋の熱帯域の沿岸であまねくおこっている現象の一端を、石垣島のアンパルで観察できることの妙味が感じられます。
「自然との共生」という言葉が簡単に使われますが、真の意味の共生とは何なのかをカニから学ぶこともできるのではないでしょうか。そして、そうしたことを考えるきっかけを与えてくれる存在としての自然というのも、充分保護するに値する環境だと思えるのです。アンパルのマングローブを眺めながらヒトは真の意味で自然と共生しているのか、もう一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

小菅 丈治

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