昨日の友は今日の敵

 与那国の天蛇鼻にのぼる。なん多浜や租納集落が一望できる。汗ばんだ肌に若夏の風が心地よい。サンゴ石灰岩が隆起した天蛇鼻の崖には一九四三年に建立された伊波南哲の有名な詩碑「讃与那国島」が彫り込まれている。与那国島を航空母艦に見たてた詩だ。
 戦後、戦争讃美の詩と責任追及を恐れ揮毫した仲嵩嘉尚は名前を削り、八重山に引き揚げてきた伊波も詩碑を削るべきか与那国警察署長であった前花哲雄に相談したりしている。(前花著『三八度線と二八度線』)だが、のちに伊波はこの詩を与那国島の麗しい人情と風景をよんだものだと弁解した。
 天蛇鼻入口には石島(旧姓喜友名)英文の詩碑も建立されている。伊波の詩碑建立をすすめたひとだ。
 石島も戦争中、西表島に駐屯した船浮要塞司令官下永憲次を称えた「下永部隊長」を作詞作曲している。戦後英文はその歌に触れて「苛烈な沖縄戦争の中で天皇陛下のために突撃して死ぬんだという歌が、いたいけな学童たちの中に歌われていたのであった。(中略)郷土を守り国を愛する心は、とってもって軍人をたたえる心でもあった。あのころの純真の前にやってきたのは、悲惨荒廃の敗戦であった。」(三木健著『石島英文』)。いたいけな学童たちの戦意を高揚させながらまるで他人事のようである。戦争讃美の詩を多く書いた伊波は「気の毒な戦争犠牲者よ…」(詩地獄絵図)と述べる。
 八重山を代表する詩人の戦中戦後の生きざま(主体)を考えながら天蛇鼻を降りる。
 自衛隊配備反対の幟があちこちに立ち、賛成の横断幕もみえる。その陸上自衛隊沿岸監視部隊配備計画が揺れている。ことの発端は外間町長が予定地取得交渉において、防衛省が年間500万円の土地賃借料を提示したのに対し1200万円を要求、さらに迷惑料として10億円を要求したことである。
 自衛隊は要求を拒否し決裂した。小野寺防衛大臣は記者会見で、「与那国島への陸上自衛隊沿岸監視部隊の配備計画に就いて地元の理解が得られない状況なら計画全体を含め検討すると述べた。(略)自衛隊配備は地元自治体の要請から始まった。要請が全く違う方向になれば前提が崩れると指摘。用地取得費について防衛省は最大1億5千万円と提示したのに対し町側は10億円を求め、土地鑑定からかけ離れ要請してきた立場を忘れているのでは(政府高官)との不満がくすぶる」(3月26日産経ニュース電子版)。
防衛省の説得にもかかわらず外間町長は10億円要求は譲らないと明言した。外間を支援してきた与那国町防衛協会は猛反発。ブログで「今回の外間町長がとった行為は、我々協会を裏切ることはもとより、国を裏切る行為」として批判、さらに「追記 以前、在沖縄総領事官で米国務省の日本部長を務めたケヴィン・メアさんの発言を(実際にメアさんはそんなことを言っていないのですが)沖縄はごまかしとゆすりたかりの名人だと沖縄の各メディアが大々的に伝え更鉄にしたことは記憶に新しいが、今まさに、ごまかしとゆすりたかりを行っているのが外間町長であることを追記します」と発信している。一寸先は闇といわれる政治の世界、昨日の友は今日の敵、恐ろしいですな。
それにしても「ごまかしとゆすりたかりを行っている」という表現、これって人権侵害、名誉棄損ではありませんか。それとも真実なのでしょうか。だとすれば、詐欺師や暴力団と同じではないですか。こんなことってあり~? 裁判物だよこりゃ。
 与那国がだめなら石垣島に配備すると防衛省が検討を始めたという。国防計画ってそんな単純なものだったんだ。あっち向きゃホイ。
「防衛省は8月の町長選までは配備容認派の外間氏の軟化を期待しつつ交渉の姿勢は保つ。ただし、外間氏が再選しても事態打開のめどはつかないばかりか、仮に配備反対派が当選すれば、計画は即座に頓挫する。8月は26年度予算案の概算要求を固める時期でもある。このため、防衛省は町長選を判断の区切りとし、与那国配備の撤回と計画変更に踏み切る。新たな配備先は石垣島が有力。23年度から5年間の経費総額を明示した中期防衛力計画は、石垣・宮古島を念頭に初動対処部隊の配備も明記している。ある政府高官は「中国に近い石垣に監視部隊も配置するしかない」(4月4日産経新聞)
 サー、他人事かと思っていれば、石垣島ってよ。中山石垣市長は誘致しないと述べているが政治の世界は魑魅魍魎の妖怪だらけ。国防マフィアがもう暗躍しているだろう。
 島を二分した新石垣空港建設の二の舞を演じてはならない。教訓をいかすべし。

大田 静男

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