今から1000年以上も前、アンパルには多数のキバウミニナが生息し、人々が食用に採取していたことが周辺貝塚の出土品からわかっています。ところが1970年代から80年代にアンパルで行われた生物調査で、キバウミニナは見つかりませんでした。ヒルギの根方にゴロゴロと転がって逃げも隠れもせず、大きさ10cmにもなるキバウミニナのような貝が、調査の際に見落とされたとは考えにくいことです。そして、現在ではアンパルに多数のキバウミニナを見ることができます。
11世紀以降、アンパルのキバウミニナは一旦絶滅し、その後最近になって復活したことになります。その経緯として、1980年代にアンパルに設けられたノコギリガザミ類の養殖試験地に、生き餌としてキバウミニナが繰り返し放たれ、それが定着したのが1988年前後と考えられています。
現在沖縄本島にキバウミニナは生息していませんが、貝塚から多数の殻が見つかっています。沖縄本島でキバウミニナが絶滅したのは約400年前のようです。
キバウミニナの分布範囲は、西はインド洋、南は北部オーストラリア、北限が八重山と、東南アジア熱帯域を中心に広範囲におよびます。しかし実際に各地のマングローブ林を訪れてみると、決してどこにでも見られる貝ではなく、飛び地状に分布しているとわかります。貝が海を渡って分布を広げるチャンスはプランクトンとして過ごす幼生期に限られますから、有史以前から長い年月をかけてじわじわと分布を広げていった時間が流れ、その後虫食い状に絶滅して現状に至ったというイメージです。
近代文明が入り込む以前に沖縄本島と石垣島でキバウミニナが絶滅した背景には何があったでしょう? 食用貝として過度に採取された? 人口増加にともなう自然改変? 環境の変化?…いずれにせよ、島々の生態系が変化し続けてきたことを、キバウミニナの消長は示しています。
島の生態系はこれからも変わり続けていくでしょう。そこにヒトはどのようにかかわっていくのか? アンパルのキバウミニナは私たちに多くのことを問いかけているように思えるのです。