息子はあえてぼくと向き合うのを避けるように隣の席に陣取ると、バイキングで盛りつけた料理を食べだした。
「なんでわざわざ隣なんだよ」
ぼくが不満を口にすると息子はちらっと上目づかいをして窓を指さした。
「真ん中に座ったらせっかくの風景が邪魔されるだろう」
思ってもいなかった返事に内心狼狽しながら、その動揺を隠すように視線をずらした。言われてみれば息子の言うとおりであった。窓外で陽をあびている観葉植物を眺めながら朝からの缶ビールを味わっていたのだ。風景が邪魔されたら確かに興ざめになりかねない。
息子の言葉で窓外の陽光が一段と鮮やかになった気がした。
「先に桟橋へ行ってるから、絶対に遅れるなよ」
息子はまるでタイムを競っているような食べ方ですでに箸を置いている。
「わかった。じゃ、乗船券を買っててよ」
ぼくの渡した財布を無雑作にズボンの尻ポケットに入れると立ち上がった息子は、遅れるなよと念を押し踵を返した。その後姿がさらに大きく見える。勝手に巻き込んだ親の都合に一言も愚痴すら漏らさず明るく振舞っている息子に詫びと感謝を伝えたいとの気持ちがこの旅で生まれたぼくの変化だった。
離島桟橋に着くと人影は少なく息子の姿はすぐにわかった。
「お父さん、オリオンビールでいいんだよね」
ぼくが怪訝そうに立っていると息子が後手に持っていた紙袋を差し出す。中身は表面に汗をかいている缶ビールだった。
「ほら、マーミヤのかまぼこもあるぞ」
別の袋には油の匂いが漂っていた。
「お前よく酒が買えたな」
「最初は断られたけど、ちゃんと事情を話したら後で親を連れてくるからという条件付きで売ってくれた」
「ほら、あそこのおばさんだよ。さっきからピースサインを送ってる」
息子の指さす方向には両手で手を振る売店の婦人の姿があった。