息子との旅 vol.20

話し合いがスムーズに行ったことよりも、自らの人生設計をきちんと組み立てている息子にただ頭を下げる思いだった。 
 窓外の見慣れた風景に目を落としながら、ぼくは息子の廉太郎に大きな借りをしたのだと思った。
 話し合う前にはいろいろな想定をした。どうしても今の学校に通いたいと意地を張られることが最大の懸念だったが、それはうまく越えられた。しかし、地元の中学に戻ってからどのような変化が現れるかはまったく予想はできない。親に人生を狂わせられたと恨んでくるかも知れないし、自暴自棄になる可能性もある。
「お兄ちゃんにはほんとうに辛い思いをさせるが、ごめんね」
 ぼくが改まって頭を下げると、耐えていただろう涙が廉太郎の頬を伝った。
「お兄ちゃん、こんなことで負けるんじゃないよ」
 妻も共に涙を流しながら息子を励ます。口を真一文字に閉じた廉太郎は涙を拭おうともせず一点を凝視しながら妻の言葉に頷いていた。
ぼくは二年前の出来事を思い出しながら廉太郎の後から飛行機のタラップを降りた。
 地元の中学に戻ってからも生活の変化はなく、仲間たちと夜遅くまで塾に通い高校入試を迎えた。塾の助言通り、第一志望の前にいくつかの高校を受験し、そのすべてに合格した。そして迎えた第一志望も目的を達したのだった。
 空港に迎えに来ていた親友の前木秀靖が廉太郎に声をかけた。
「初めての与那国はどうだったね?」
「与那国という名称の意味がなんとなくわっかたような気がしました」
「難しい感想だね」
「いえ、なんで島なのに与那国と名付けられたのか気になっていました」
「答えがわかったんだね」
「これはぼくの考えですが、あの島は孤立しているのではなく独立しているのだと感じました」
「そうだよな、何と言ったって国が付いてるんだもんな」
 二人の会話を隣で聞きながら、ぼくは廉太郎が成長したと思った。

小浜 清志

この記事をシェアする