●自衛隊配備計画がもちあがって与那国島は賛成・反対で二分されています。
これまで進めてきた南西諸島への自衛隊配備計画が、着々と進行しているといった印象ですね。南西諸島に自衛隊を配備するというのは、日米安保の要である基地を確保し中国に抗していこうという日本政府にとっても自衛隊にとってもどうしても必要なこと。過疎化だから自衛隊を誘致しようという与那国の動きは政府にとって渡りに船であったというか、台湾との交流で島を開こうとした与那国自立ビジョンを封じ込めて国が自衛隊誘致に仕向けていった可能性もありますね。
アメリカは自分の国を守る為に最前線基地として日本、韓国、フィリピン等に基地をつくってきた。アメリカの国防線、生命線をそれぞれの国が担っている。日米安保はその一環ですね。
ですから、鳩山元首相が普天間基地を県外に、と言ったときに、日米同盟を推進する立場の人たちが全部で鳩山叩きをした。日米で潰さなければならなかった。そのために鳩山も管も追われ、従来どおりの日米同盟を推進していく政権になった。
アメリカは自分たちの利益が国益にそぐわないとしたら、中国と一緒になる可能性だってある。そうなると困るから日本はいつまでもアメリカに媚を売っている。だから普天間基地の問題などアメリカの言いなりになるしかない。
しかしそれは沖縄の人たちの意思を無視したこと。沖縄が普天間を移してください、辺野古はいりません、と言っているにもかかわらず、移すことができない。
そこで、国は沖縄の戦争体験、根強い反基地感情を崩していかなくてはいけないと思っている。教科書の中でも、集団自決は軍の命令であったということを削除、あいまいにしていく必要がある。つまり同じ国民が同じ国民に銃口を向けて、国民を守るべき軍隊が国民を守らないで、国民を虐殺していったということが教科書で教えられるということは、これは国からみると許しがたいこと。そういうものをまずは抹殺するか曖昧にしてしまう。
国としては沖縄の戦争体験とかこれまでの歴史的な体験を国全体の中に解消させていく。沖縄の特異性をなくしていって、同じ国民だろ、と。だから国益を守らないといけないと、そんなふうにしたいわけです。そうしないと沖縄の軍事基地が維持できない。
そこで八重山がターゲットにされた。与那国の自衛隊配備、教科書問題、PAC3、尖閣諸島の買取り、これらはいずれも一連の意図された動きの中にあると思いますね。
そういう国の政策に与那国、八重山の側から身を摺り寄せて行くというのは考え問題です。私たちの立つ八重山の歴史や沖縄の歴史から学んだ上でのことではなくて、国の言うとおりの政策に身をゆだねていくというのは、とくに平和や戦争を考えるときに大変危険なことだと思います。
●与那国町長は積極賛成ではなく、経済振興のためには自衛隊配備もやむを得ないと言っています。
なんでも経済優先でものを考えていくと島の未来はどうなるか。余計なものをもってきて島を二分するより、人材育成とか別のことを考えたほうがいいと思います。
与那国は安易に自衛隊に頼るのではなく、これまでやってきたように国際都市にするための模索をしていくほうがいいのではないか。これまでやってきた台湾との交流をもっと進めて、台湾を通して世界に広がっていく。台湾、中国に広がっていかないと、いつもどん詰まりでしかない。そこにさらに自衛隊をもってきて自分たちで道を塞いでいくというのはまずいと思いますね。
尖閣問題がこじれたりしたらカジキ、マグロどころの話ではなくなってくる。双方が武器を持って睨み合うよりも双方が行き来をしたほうがいいんじゃないか。そのほうが経済的にも広がる可能性がある。
それは与那国だけの問題ではなくて、八重山は地の利を生かして台湾を通して世界に開かれるような、もっと住民が交流して平和を築いていかないとこの島々はだめになってしまう。
与那国の自衛隊に1年で10億円の予算がついている。自衛隊配備はどんどん進んでいきそうだが、それで与那国がこれまでやってきた台湾との交流などがはたしてうまくいくかどうか。今までどおり行かなくなる可能性が高いと思う。
経済振興のために軍隊を誘致しようという動きは戦前の沖縄にもあった。戦前、沖縄は慢性的な不況で、1個師団でも軍隊を誘致すると経済が潤う、と。今の与那国と同じ。県議会で誘致を決めて、しかし当時は沖縄に軍隊を置く必要がなかったので実現しなかった。太平洋戦争でやってきた軍隊は大変悲惨なものをもたらしたのですが……。
また、自衛隊の災害援助、人道支援は政治的にたいへん受ける。東北大震災で自衛隊がものを片付けたといえば自衛隊が受け入れられる。石垣だって、ついこのあいだのPAC3配備でも、「北朝鮮悪いよね、自衛隊にありがとうと言いましょう」と子どもたちが言っている。自衛隊配備のための地均しですね。
そこで考えなければいけないのは、はたして自衛隊は住民を守れるか、ということですよね。PAC3にしてもミサイルが飛んできたら守れるのは80パーセントだと。じゃあ、あとの20パーセントはどうなるの。20パーセントはなぜ死ななければならないのかということ。
さらに、小さい島で戦争をやったらどうなるかというと、住民は逃げるところがない。島の中央にといっても、当時よりもはるかに武器も近代化していて、逃げるところがない。自衛隊が与那国を守れるかというと、守れない。いざとなれば与那国の島は残っても、住民は残らない。
そもそも軍隊の任務は住民を守ることではなくて、領土を守ること。戦前は軍隊のそこを間違ってしまったから、沖縄の住民は、軍隊を歓迎して軍と一緒に戦ったけど、銃口を向けられた。
●軍隊(自衛隊)が住民を守らないというのをもう少し詳しく聞かせてください。
軍隊は国のためにしか動かなかった。住民を守らないというより住民のためには動かない。根本は天皇制で、天皇の軍隊としてしか機能しなかった。住民がどうであろうが、最後は天皇体制を守るためにどうするかだった。軍隊は権力のものでしかない。権力の体制を維持するためにしか軍隊はなかった。小さい島に軍隊が入ってくるとやがて住民の意思はまったく無視されてくる。
国民は兵隊になることによって、「私たちの兄弟、村も守ります」というのは幻想でしかなかったわけです。「俺はただの人だけど、兵隊になったら親兄弟を守ることができる」と思った。しかし国のためには親兄弟(住民)に銃を向けざるを得なかった。
今だって同じ。自衛隊は、領土、国を守るのであって、住民を守るのではありませんよと言っている。今は天皇とは言わず国体だが、国体を守るためには住民は二の次。
加えて、島嶼ということを考えると、戦闘状態になると住民はどうしようもない。助かることはほとんどない。だから、どうしても戦争は避けなければならないわけです。
不思議に思うのは、「島嶼配備計画」というのは先の戦争中すでにあった(「沿岸警備計画設定上ノ基準」)。しかしそんな計画どうしようもならなかったのに、それをまた繰り返そうとしている。
戦争が起きたら小さい島の住民はどうするか? 逃げていけというだけなんです。沖縄のような小さい島は攻撃されてどうしようもならなかった。手も足も出なかった。また同じですよ。
住民は自衛隊が守ってくれると思っている。しかし守れないことは自衛隊自身がよくわかっている。守れないのに、石原東京都知事などが尖閣を利用してナショナリズムを煽って、愛国心とか国益とか言い出している。大変危険なことだと思いますね。それに乗じて自衛隊が入ってくる。
いったん戦争となると、自衛隊があれば当然自衛隊目がけてミサイルが飛んでくる。打ち込まれたら自衛隊員だけでなく住民も死ぬ。ミサイルが来たら、PAC3があっても20パーセントは死ぬよ、ということなわけです。その20パーセントの中にあなたも入っていますよ、と言わなければいけない。大陸だったら逃げることも可能だろうけど、島は交通手段も遮断され食料もなくなり、医療施設もなくなる。孤島になる。
近代装備をした中国の軍艦が攻撃しながらやってくる。すると国民保護法では、与那国、竹富町から石垣に逃れ、石垣から沖縄、本土に疎開するというわけです。しかし、そんなことができるわけがない。
中国と交戦するとなると当然沖縄の基地は戦闘状態に入るわけだし、そうなると、住民は逃げることができない。船なんか出せないし、島に居るしかない。
●石原東京都知事の尖閣買取り発言の意図とその影響についてどう考えますか。
非常に危険だと思うのは尖閣問題ですね。日本のマスコミがわっと飛びついて、中国脅威論で大騒ぎになっている。さかんに中国の民兵が上陸してくると騒ぐ。で、国防、国防となる。その最前線が与那国島、石垣島であるわけです。与那国だって、過疎化だからといっていたものが引っ込みがつかなくなってくる。
そんなマスコミに踊らされると、だんだん目が見えなくなってくる可能性がありますね。
尖閣のことを考えるとき、まず戦争にならないようにするためにはどうすればいいか考えないといけないと思います。戦争になったら島に住む僕たちが死ぬ確立は非常に高いわけですからね。
ところが石原東京都知事のパフォーマンスはとても危険だと思います。東京都が尖閣を買い取って施設などをつくろうものなら、中国は当然なんらかの、例えば漁船を拿捕するとかの対応に出てくるだろうし、尖閣周辺、つまり八重山周辺はものすごく波が高くなる。
たしかに中国が今の経済成長を維持していくためにはエネルギーが必要。外に出なければならないという事情はあるだろうが、だからといって、尖閣を実効支配して紛争にもって行くようなことはないだろう。
しかし日本が実効支配を言い出すと、中国は引き下がるわけにはいかないだろうし、こうなると全面戦争の可能性もないとは言えない。すると、尖閣のために、東京都のためになんで私たちの八重山が戦争に巻き込まれなければならないのかと思う。
東京都知事は外交問題など関係ない、じゃあ石垣はどうなるの? それも関係ない。つまり、現地とは遠く離れた東京都の石原知事がパフォーマンスをやり危険状態に陥れていく。国益を守るためには、住民の犠牲もやむを得ないということになる。かつての戦争のときと同じ。「お国のために」となる。
東京都が尖閣を買って何かをすることは、だから大変危険なことであるわけです。それを八重山の人たちは「危険である」ということを主張しないといけない。なのに、石垣市長や市会議員たちが、賛成賛成とやっているのは、みんな北のほうに、国のほうに目が向いて、地元に目が向いていない。
教科書問題にしてもそうで、彼らは意図的、計画的、組織的にやっていると思いますね。育鵬社の教科書は尖閣を日本の領土だと強烈にアピールしている。自衛隊は大切、軍隊は住民を守るという意識を植え付けるためには教科書のなかでそれを教え、さらに、自衛隊の災害救助、人道支援をアピールしていく。八重山が次第にその波の中に飲み込まれていく。八重山を突破口にして沖縄を揺り動かし、緊張感をつくりだそうとしていると思います。
中国に対して支那とか三国人発言をしている石原知事が、尖閣購入の話をとつぜんアメリカで打ち上げるというパフォーマンスを中国がどう受け止めるか。明らかですよ。
●右傾化が進む日本のなかの国境の島に住む我々はこれからどうすればいいでしょう。
日本の右傾化は強烈になってきています。戦争体験者がだんだん亡くなって、戦争体験が風化してきている。戦後生まれが国の中心になって、すると小林よしのりや石原慎太郎をかっこよく思う者が増えてきているということでしょうね。やがて平和憲法は平和憲法でなくなり、武器輸出三原則なんかなくなって日本にも死の商人が出てくる可能性が高い。
ここは戦争体験を掘り起こし、一人ひとりがものごとをじっくりと考えていくという姿勢が必要だと思います。そうしないと大きいものに巻かれてしまう。尖閣は日本であると教科書に載っているからそこに自衛隊を置こうが関係ないとこれまでの日中関係の経緯を無視して短絡すると、いたずらに中国を刺激することになる。
一方で、あるお母さんが、「お金がなかったら自衛隊に行かしてあっちで車の免許証取らしたらいいよ」と言っていたのを聞いたことがある。それくらい自衛隊は自衛隊の役割を考えずに認知されているということですよね。自衛隊のことを軍隊ではなく災害救助隊のようなものだとしか考えられていない。
自衛隊に入隊する若者たちには、戦争が始まれば自分たちは死ぬんだという認識は何もない。かっこ良さ、自動車免許をとるところ、それぐらいの認識。しかしそれは大変危険なこと。
そうならないことを願っていますが、悪くすると、かつての戦争の歴史をくりかえす可能性があると思います。
戦前の八重山で教員弾圧事件というのがあった。社会科学系の勉強会を開いていた教員たちが逮捕されたとき、在郷軍人会のメンバーが八重山義勇軍をつくり、逮捕された教員たちを「国賊、国賊」と指弾したわけです。あいつらは危険である。この島からあんな人たちを出したのは恥であると盛んに宣伝した。
今後、地域に昔の在郷軍人会、八重山義勇軍のような組織ができて、地域を軍事色に染めていくという危険性もある。そしていったんコトが起こると、自衛隊、尖閣問題に異議を唱える人を昔のように「国賊」と指弾していくことがおこるかもしれない。言論の自由も脅かされていく可能性がある。それが過去の歴史だった。
田舎ではとくに選挙ともなると地縁血縁、同級生とか、主義主張が違っても応援していく。あんなことをやっているうちにみんなおかしな方向に行っている。一人ひとりがしっかりと考えていく必要があるのじゃないか。
歴史を掘り起こしたら権力がこの島々をどう見てきたか、どういうことをしてきたかがキチンと分かる。軍事論的に言っても、島嶼の住民は死ぬ以外にない。しかもこんな小さな島に軍隊を派遣して何の得があるのか。コトが一旦おきてしまったらもう終わりですよ、ということを認識したい。
そんな馬鹿なことをやっているよりは、東アジアの人が集って国際会議ができるようなセンターでもつくり、人材育成をするとか、もっと平和的なことを考えたほうがいい。日本政府はフィリピン、ベトナムとかと一緒になりながら中国に平和外交をすすめていくしか方法はないと思う。
平和憲法は名ばかりになりつつあるが、僕たちとしてはそこを守っていくしかないと思います。