八重山の医療問題

産婦人科医不足で郡外でお産をせざるを得なくなるかもしれない、八重山病院では脳外科、心臓外科の手術ができないなどという話を聞きます。八重山の医療とそれを取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。「八重山病院の先生方の多くは、琉大病院医局からのローテーションで来ているか、県立病院研修修了者です。そのために1年単位の短いローテーションで異動する場合が多いわけです。長く留まってもらうためには、八重山の住民はわれわれに常にあたたかい心を向けてくれていると医療従事者が思うような、そういう雰囲気をつくっていきた

八重山の医療を守る郡民の会 事務局長 大山 剛

●八重山病院の医師不足は危機的な状況にあるようです。現状とその対策について教えてください。

 医師不足は深刻な状況ですね。全国平均は人口10万人当たり206人ですが、八重山は146人。全国平均の71パーセントです。去る3月県議会で、県は117名の増員をしていると言っていますが、八重山ではまだまだ不足ですね。
 八重山病院でも、眼科、耳鼻咽喉科、脳神経外科…、医者が足りない科は多いですね。産婦人科医は今年いっぱいは大丈夫だけど、来年はわからない。綱渡り的な現場なんですね。全国的に産婦人科・小児科の問題のむずかしいのは訴訟が多いこと。だから医者はそこに行きたがらないという傾向もあるようです。
 これは医者ではないんですが、八重山病院の看護師は患者さん10人に対して1人ですが、これも最低7人に1人でないと質の向上も図れない。これは財政の問題も絡んできますね。
 医師不足は全国的な傾向で、国は医学生を減らしてきた。さらに悪いことには山村僻地に行く医者が少なくなった。なぜかというと、多くのお医者さんたちは専門医をめざしているわけです。そのためには都市地区でいろんな研究をしないと専門医にはなれないという現状があります。
 医者は減って、高齢化が進み、若い医者は専門医を目指して都会に集まるという、離島からしてみれば悪循環ですね。県としてもドクターの確保に全国を飛び回ったり、一生懸命やっているようですが。
 医師不足に加えてもうひとつ、医師の安定的確保の問題もあります。八重山病院の先生方の多くは、琉大病院医局からのローテーションで来ているか、県立病院研修修了者です。そのために1年単位の短いローテーションで異動する場合が多いわけです。
 中には5年間勤めた先生もおられますが、そんな先生方も子どもの教育の問題とか、出身地に帰るとかで島を出て行きます。ここはやはり八重山出身の医者を増やすという長期的な展望で人材育成に取り組んでいかなければいけないと思います。
 宮古の医療現場には宮古出身者が多いですが、八重山病院の44人の医者のうち地元出身者は3人だけです。たとえばじいさんばあさんが来ても方言がわからないために意思の疎通が図れないところがある。やっぱり地元のことはある程度地元で完結することが必要だと思います。

●医者不足はまた医者の過重な負担につながっているようですが。

 お医者さんの業務は、通常の一般診療のほかに、救急医療、住民検診、離島巡回診療、訪問診療などがありますが、とくに急患搬送のときの添乗などは大変な業務のようです。
 離島で急患が出ると、竹富町長、与那国町長が県知事に要請をして、県知事が海上保安庁にヘリのお願いをする。2時間かかります。海上保安庁としてはドクターが必ず乗ってくれと言いますので、今のところはなんとかやりくりして八重山病院の医師が乗っているようですが、大変な負担です。たとえば波照間から診療所の医者が乗ると、その間波照間は無医地区になるので、結局八重山病院の医師が付き添うことになる。沖縄本島に搬送する場合もそうです。
 そこで、離島の多い八重山にはどうしてもドクターヘリの導入が必要だと思いますね。ドクターヘリを入れることによって離島の救急医療に役立つだけでなく、いろんなメリットもある。まずドクターヘリには常時医者がついていますのでそのぶん医師の増員になる。また、全国には救急搬送に興味を持つ医者がいますから、全国から医者を確保しやすくなる。
 昼間はドクターヘリ、夜間や悪天候などのときは今までのように海上保安庁さんにお願いして、とくに離島は二重にも三重にもカバーできる医療体制をつくるべきだと思います。行政も痒いところに手が届くような施策をしてくれないと我々離島は困るわけです。
 それから、医者の負担を軽減する方法を私たち住民も考えなければいけないと思います。去年の3月3日に私たちは「八重山の医療を守る郡民の会」を立ち上げて1年あまりになりますが、その間、6つのアピールをしてきました。
 一つ、全国並み医師数の達成活動をしよう。一つ、地元出身の医師や医療・介護者の人材育成を積極的にいたしましょう。一つ、県立八重山病院の新築運動を展開しよう。そしてあとの3つは、受診する私たち住民の意識の問題をとりあげています。コンビニ受診を控える、かかりつけ医をもつ、感謝の心をもつようにしましょうということです。
「コンビニ」と「かかりつけ」のふたつは医者の負担軽減につながるし、「感謝の心」を持つと、医療従事者が気持ちよく仕事ができ、八重山に長く留まってくれることにもなるのではないかと思います。たとえば海上保安庁のヘリで運ばれてもお礼の言葉がない、救急車をつかってもありがとうの言葉もないという話をよく聞きます。
 八重山の住民はわれわれに常にあたたかい心を向けてくれていると医療従事者が思うような、そういう雰囲気をつくっていきたいですね。先生方に感謝の会をやったり、新しく来られる医療人にはよろしくねと歓迎会を開いたり、医療人と住民との接着剤の役割を私たちの会は果たしていこうと思っています。
 医療・介護の支援をしようという団体は沖縄県では初めてです。郡民の一人ひとりが、医療というのは空気のように当たり前のものじゃないんだと理解して、支援をし雰囲気づくりをして、医師不足が解消するように、望ましい充実した医療ができるようにしていければと思います。

●八重山病院の新築運動について教えてください。

 八重山病院が現在地に新築移転したのが昭和55年。32年前ですからかなり老朽化が進んでいます。また、59年に西内科病棟、61年に西外科病棟を増築して、追加追加でやってきたから機能的効率的でないところがある。さらに一部屋に6床というのは全国的にも劣悪な環境。やっぱり新築が必要な時期にきていると思います。
「郡民の会」は今年2月13日に、八重山市町会に八重山病院建設検討委員会を早くつくってくれと要請しました。宮古の場合は検討委員会立ち上げから10年かかって新築なったわけですからね。
 新しい八重山病院は、救命救急(ドクターヘリを含む)と離島支援(各島の診療所とのダイレクトな情報共有など)と高度な臨床(心臓外科、脳外科などのスタッフが揃っていること)、まずこれを徹底的にやって欲しいと思います。
 そして、まず今の296床は維持するが、もう6床部屋とか4床部屋ではなく、個室中心の配置にする。
 また、八重山の風土にあった病院をつくることが大切。これは私の考えですが、介護医療の専門学校がASEANには少ない。南の玄関口である八重山病院に専門学校など教育の場の機能を持たせたらどうだろう。そうすれば、ASEANからの人たちが介護医療の勉強にやってくるだろうし、地元の人も現在のように那覇に出なくてもここで介護医療などの受験ができるようになる。
 さらに、ここはオイルルートにありますから、外国船からの急患搬送などにも対応しなければならないという特殊な地域でもあるわけです。南からの風土病なども入りやすい。それに対応する専門医療も必要。来年3月には新空港が開港します。国際化に向けた南の玄関口というのであれば、それに対応する医療体制が必要であり、そこまで考えて欲しいと思いますね。

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