干立村節祭の仮面

干立村節祭の仮面

 農耕儀礼の節目、すなわち節(シチ)祭で、西表島祖納・干立村の祭事に登場する仮面は、ミルクの面がある。干立ではオホホの面が加わる。今年の節祭は、十月十二日と十三日の両日に亘って挙行された。祖納の節祭は、国指定重要無形文化財に指定されてから二十年の歳月を重ねてきた節目となった。
 祖納と干立の祭りの特色と異なる点を挙げると、次のようなことである。祖納では、公民館に集合した祭りの芸人達が、神の御座と呼ばれる前泊海岸に向けて旗頭三流を先頭に出発。続いてミルク行列が続き、貴婦人の行列と言われるアンガー行列が続く。それは、二名の頭から全身黒装束を着用した婦人を先頭にした業辣である。一説によると奈良町時代の貴族行列の名残だとか。または、十六世頃から近海に出没するようになった異国人に掠われた少女が、成人して帰島した様を現したものだとか。祖納の節祭の国指定重要無形文化財の勘所が、この行列にあるのだとか。
 一方、干立村の節祭は、干立海岸で舟漕ぎ(爬龍船)を済ませ、今年の五穀豊穣を感謝し、来期の豊作と無病息災、弥勒世果報を祈願してから、星立御嶽で数々の芸能が奉納される。中でもミルク行列の後のオホホの仮面芸は、ユーモラスで憎めない所作で見学者を和ませてくれる。
 オホホの仮面を被った人物が、どこからともなく登場。その背には大きな信玄袋を背負い、中から大判・小判を取り出し、「自分は金満家で大金持ちでであることを辺り一面に金をばらまいて見せびらかす」。村人(前もって打ち合わせした人物)が、一銭でもねこばばしようもなら、必死になって取り返そうとする動きに爆笑。
 いつ頃、誰が、どのような経緯で、オホホの仮面芸を登場したのかは不明である。今回、偶然にもオホホとミルクが重なって同時に撮影できたシャッターチャンスがあった。千載一遇であった。

加勢本 曙

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