てぶくろ

右手はコートのポケットの中

「てぶくろ」を反対に言ってみてと言われ、誘導されるままに答えると、いきなり拳が飛んで来る…。そんな遊び、今でもあるのでしょうか。そう、てぶくろという文字は、逆さに読むと「六撲て」となるからです。
 私のやいま帰省はほとんどが夏の時季で、久しく沖縄の冬を経験しておりませんが、思い巡らせるに、八重山在中防寒用の手袋を着用した覚えがありません。しかし、ヤマトゥでの冬はマフラー等と共に手袋は欠かせません。ところが、手に装着する手袋という衣料品は、役割の多い手の動きにつれて外したりはめたりが頻繁です。特に右手。定期券を取り出す、しまう、そして買い物の品選び、支払い、頁めくりの場面と外すはめるを一日に幾度となく繰り返します。かくして気が付いた時にはあら、右手が…となってしまいます。途中気が付いて後戻り、路上にへたっている我が分身を拾うことが出来ればまだいいのです。かくして我が玄関先の箱の中には、パートナーを失ってしまった左手袋が何枚もたまることになります。片方だけ売ってくれる店なんて聞いたことが無いし、失くした時点で同一の物が置いてあるとは限りません。それとも、私のような失くし屋さんは、初めから二セット買うべきなのでしょうか。
 十一月に入ってこの冬も新しく買わなければと思っている中、とりあえずくだんの箱の中からおもむろにピックアップした一つをはめ、大手を振って歩いています。「右手は、コートのポケットに入っているんだもん」とばかりに。
○振り向けば生き物の如し道端に主を乞ひて手袋一つ

大川 安子

この記事をシェアする