尖閣事件から見えること

尖閣事件を契機に島中が偏狭なナショナリズムに陥ろうとしている。
 これまでの唐人墓や芸能交流などを通しての友好関係が一瞬にして粉砕される、いな、粉砕されそうな勢いである。
「国防動員法が施行され外国に住むすべての中国人に適用された。もし、中国が日本と紛争状態になった場合、日本にいるすべての中国人は武器をとり日本人の敵となる」(「尖閣諸島は日本固有の領土である」大浜孫典八重山毎日10月12日)。
 関東大震災で、朝鮮人が暴動を起こすといって何十万人という人たちが自警団によって撲殺や虐殺された事件を思い出させる。無政府主義者の大杉栄、伊藤野枝が憲兵によって虐殺されたのもこのときである。沖縄の歴史家比嘉春潮も朝鮮人に間違えられて危うい思いをしたことを記している。中国人、韓国人敵視や蔑視によってしか近現代を築くしかなかった日本国家や日本人の負の歴史の悪夢に慄然とする。
自衛隊誘致派は勢いをまし、尖閣に基地の設置をと叫んでいる。
 日中台が尖閣をめぐって戦争が起き、米軍が参戦したらどうなるかというシュミレーションがなされていることは以前にも書いた。石垣島が最前線に成る想定であったと記憶している。
日米対中が本格的に戦うとなればそれこそ総力をあげての戦争である。銃撃戦どころの話ではない。
 最先端の武器であるミサイルや爆弾が使われるはずである。
そんなものがアーツブ(粟粒)のような島に撃ち込まれたらどうなるか。云わずとしれたことである。
 そのような事態にどう対処するか、「沖縄県国民保護計画」の13章離島における武力攻撃事態等への対処で(1)島内避難(2)島外避難(3)県外避難に分けている。概要すれば島内避難所(どのような施設かは不明?)への移動は原則として徒歩、島外避難は八重山地区の離島は石垣島への避難原則。
(3)県外への避難については、大規模な着上陸侵略やその前提となる反復した航空機等の本格的な侵略事態が発生した場合が想定される。このため航空機及び船舶の確保が重要となるができるだけ早い段階での取組が重要なことから沖縄本島を経由せず直接本土へ避難指示する…。
沖縄戦における島嶼計画と同じである。台湾疎開、白水への退去などとどう違うのか。そしてそれがどのような悲惨な事態を招いたのか。明らかであろう。
 アリの動きさえも衛星から見える時代である。
四海に囲まれている島嶼において逃げ隠れる場所などどこにもない。
 ゲリラ戦など始まれば八重山郡民は「死」しかないのである。
 弾道ミサイルやゲリラ、特殊部隊などによる外国からの武力攻撃を想定した住民の避難マニュアルがいかに机上の論理でしかないことは明白であろう。
 対中国人敵視が監視社会となり、人情もへったくれもない島になることは当然であろう。
 尖閣事件を契機に自衛隊配備の声はますます高揚している。しかし、軍隊を派遣して八重山を守るといった日本軍は島人を守るどころか、死の淵へ追いやったのではないか。軍隊の本質はかわらない。
 さて、尖閣事件に押されて普天間基地県外移設さえ日米同盟強化等という声に呑みこまれかねない。
 インターネットでは県内移設を主張する前原外務大臣や北澤防衛大臣等親米派の陰謀説さえささやかれている。閉塞状況を打破するためにだ。
 中国の急速な経済成長、軍事力の増強、台湾との急速な接近。それに対する中国脅威論の台頭、日米両政府の恐怖心を煽りながらの自衛隊配備計画の強行など八重山を取り巻く状況は今後共厳しいだろう。
 だが、いまこそ沖縄近現代史から教訓を学び、平和交流をより促進することである。
 住民の交流、理解が緊張を緩和する特効薬なのである。

大田 静男

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