「アントゥリ」という村があった。西表島の西側、深く入り込む二つの湾に挟まれた岬にその村はあった。昭和四六年七月十四日、廃村。五一年に東海大学が研究施設を設営し、以来この地は海洋研究のメッカとなり現在に至っている。
桟橋の傍らには石碑が立つ。村が存在したことを示す「あんとぅり」の碑である。砂浜にはヤドカリが群れ、海鳥が往来する。村の存在を後世に示す記録と言えば、この碑と、十余枚の古写真、そして数冊の書籍ばかりであった。廃村後、村跡はほとんど手の入らないまま、今日まで置かれてきたのだった。
状況が変わったのはここ十年である。平成一四年、考古学者たちがこの地を訪れた。目的は遺跡調査である。彼らの調査は、人々の記憶から薄れ、深い茂みに覆われていたアントゥリの地を「遺跡」として捉え直した。そして物質資料に基づいた歴史研究を推し進めることとなった。これは文字記録に乏しく、知るすべがないと嘆かれたアントゥリ村の過去を解き明かす、新たな展開だったといえるだろう。
平成二十二年八月末、筆者は初めてアントゥリの調査に参加した。そして思いもかけない貴重な遺跡と巡り合うことが出来た。