八重山の煙草と漂着民

八重山の煙草と漂着民

モノが語る八重山

キセルという言葉には「あいだが抜ける」というもう一つの意味がある。先月号まで、キセルを始めとする喫煙具の話を続けてきたが、今回はキセルの話を「キセル」して、八重山のタバコの話題を取り上げよう。
 意外に思われるかもしれないが、タバコは外国人の漂着記録に登場する。『八重山島在藩役々勤職帳』(一八一六年)は、漂着民に食糧等に加え「割たわく」、「切たはこ」を提供するよう定めている。キセルかパイプにつめるよう、刻んだ煙草のことだろう。漂着民にタバコとは不思議な気もするが、薬用やもてなしの意味もあったのかもしれない。
どんなタバコが提供されたのだろうか。『冨川親方八重山島仕上世例帳』(一八七四年)では、漂着民に「島多葉粉」を提供するよう定めている。「島多葉粉」とは地元のタバコを指す語であろう。また『琉球国異人之届・書面』(一八五七年)では、多良間島に漂着したオランダ船の乗員へ「八重山煙草」が提供されている。これは八重山から輸出されたタバコなのだろう。八重山で生産されたタバコが多良間島へ渡り、オランダ人の手に入るという興味深い流通ルートがここに見られる。
 ではどんな味だったのだろう? モノも文字も伝えてくれないが、少なくとも「国分煙草」のような高級品ではないようだ。また奄美や宮古のタバコはきつめだったらしい。命からがら辿り着いた八重山で、漂流者が吸ったタバコはどんな味がしたのだろうか?

写真は
石垣島北端のタラマダー(多良間田)から見える多良間島。

石井 龍太

この記事をシェアする