「医介輔(いかいほ)」とは、終戦直後、アメリカ統治下にあった沖縄において、深刻な医師不足を解消するため、医療経験者に急場しのぎの対策として「医師助手」という資格を与え、医療業務に専念してもらうよう認められた制度である。その医介輔として長年に渡り竹富町の人々のために、文字通り走り回った、この本の著者である親盛長明さんは残念ながら昨年他界されたが、長男である一弘さんが意志を引き継ぎ完成させた。一弘さんは、手紙や電話などによる読者からの反応のなかでも「自分史」という枠を超えている!という意見が多いと話してくれたが、読みすすめると確かに「戦後間もない時代の沖縄における医療制度の実態」を医介輔としての視線から語るだけではなく、文化的、社会的、風土的な郷土史としても読み応え満載なのである。また食べることに困り、今以上に交通の便の悪かった幼少期、友情を育み、なかには恋愛にも発展していった青年期の充実した日々、特に「異国人を救った話」の項に収められているエピソードはハラハラさせられてまさに冒険小説のようでもある。プロフィールや第一章の早い段階で述べられている「13歳のときに事故により右腕を失った」というハンデを忘れてしまうほど、その後の人生の充実ぶりも描かれている。当書籍は一個人の歴史のみならず、医療界にとっても八重山においても十二分に価値のある一冊である。