今をさる二年半前、平成19年9月に那覇地裁に川平・吉原地区に建設予定されていた7階建て、高さ25メートルのマンションの沖縄県への「建築確認の差し止め」を求めた訴訟が建設予定地、周辺住民6名が原告になり行われました。
この裁判の意味は、「行政訴訟法」の改正によって、建設工事の着工前の建築を計画し始めた「建築確認を申請した」段階で、その「差し止め」を求めた前例を見ない全国ではじめての訴訟でした。通常建物建設の訴訟は、工事が始められた場合の「工事差し止め」の訴訟がほとんどを占め、結局は、建設物が完成してしまうことが多いようです。このマンション建設予定地は、景観法に基づく石垣市の「風景づくり条例」によると「サンゴの海浜」地区に当たり、建設物の高さは、7メートル以内になっております。しかし建築事業主は、その高さの3倍以上に建物の高さを計画したものでした。また予定地の県道79号線の危険なカーブ部分の歩道建設をさせない、用地ギリギリの建物でもありました。マンション建設に関しては、地元「吉原公民館」では、建設の反対決議がなされ、石垣市議会でも同様の決議がされました。訴訟の証人に前大浜石垣市長は、「風景づくり条例」の実効性を訴えたい、と言明してくれました。その条例には、罰則規定がなかったからです。しかし6回の公判を経た那覇地裁の判決は、住民の「景観利益」を認めたものの特別な損害が生じないとして原告に対して「却下」と一部原告には、「棄却」の判決をいたしました。私たち原告は、それを不服として福岡高等裁判所に控訴しました。残念なことに市長の証人喚問は、かないませんでした。
地裁でも高裁においてもそれぞれの裁判官が例外的に建設予定地を「現地進行協議」と云うことで予定地を視察しました。そこにおいて私たち原告は、建設予定地の隣地に看板を吊したクレーンでマンションの高さを現し、川平湾のグラス・ボートをチャーターして裁判官に同乗してもらい美しい川平湾の自然景観が人工構造物によって取り返しのつかない程破壊されることを強く訴えました。この裁判では、司法の場において「自然景観」の意味の判断を強く求めたものでもありました。しかし、福岡高等裁判所の今年4月の判決前に私たち原告は、やむなく訴訟の「取り下げ」を裁判所に提出しました。理由は、(1)建築事業主が建設予定敷地の一部100平方メートルを沖縄県への歩道分部の拡張部として売却して、建設予定敷地が当初の面積より狭くなってしまいました。即ち25メートルのマンション建設の容積率を確保さなくなり「建築確認」の条件を満たさなくなり、審査の対象にならなくなったことです。(2)石垣市で2年あまりにわたって計画、審議していた「法的」拘束力を持つ「都市計画決定」に基づく「景観地区指定」が本年の3月13日に沖縄県知事の同意を得て告示されました。ここでは、7メートル以下でしか建物は、建たなくなります。以上の二つの理由で裁判を争う争点が無くなってしまった訳です。事実上マンションは、建たなくなり、景観は、守られた訳です。
三年程前「景観法」に基づく「風景計づくり条例」を市議会全会一致で決めた条例であったはずが、今回の「景観地区指定」で市条例の一部改正が、こともあろうに「継続審議」に半年近くもなっています。反対者がいるからです。今年二月に代わった新市長の「景観に関する」姿勢も今ひとつはっきりとしていません。裁判で争うことを辞めたものの川平湾を守る景観への心配は、まだ解決しておりません。