アンパルは干潟の共生生物の宝庫

「人と自然の共生」という言葉が使われる。生物学用語の「共生」が指す内容と必ずしも一致しないが、その検討は別の機会に譲るとして、アンパルを含む名蔵湾の干潟が共生生物の宝庫であるという話を紹介しよう。
 オサガニヤドリガイという3ミリ大の二枚貝がフタバオサガニの脚や甲羅に付く。ヒモイカリナマコの体表に暮らすヒノマルズキンという二枚貝の生態も特異だ。タテジマユムシの巣穴にはナタマメケボリガイが住む。スジホシムシという肌色をしたミミズに似た生物にはフィリピンハナビラガイやユンタクシジミという白く小さな二枚貝が付着する。スジホシムシモドキとスジホシムシヤドリガイが共生することは知られていたが、ホシムシアケボノガイという別の貝も共生することが昨年日本で初めて報告されたのも名蔵湾の干潟だった。さらにハサミカクレガニというカニがこれらナマコ、ユムシ、ホシムシのいずれの巣穴の中にも生息する。これほど多様な共生関係を見ることのできる干潟は全国でもアンパルをおいてない。
 こうした事例は共生ではなく寄生ではないか?と思われる方もあろう。古典的な定義では、宿主の体の一部分を食べるなどのダメージを与える関係は寄生だが、何ら危害を加えることなく中立を保っている場合を偏利(ル・へんり)共生と言い、双方が互恵(ル・ごけい)的な関係を相利(ル・そうり)共生と呼ぶ。
 ただしここで言う利害関係とは、人間が傍目(ル・はため)に見て利害を判定できたケースに限られる。当事者同士が真にどのような利害を被っているのか、人の目には見えていない場合もあるだろう。今見ることのできるカニや貝やホシムシは、人類が登場する以前から共生関係へと続く道を歩んできたに相違なく、奥の深い利害関係の実態について、人はどこまで見極めることができているのか疑問に思う。確かなのは、限られた面積の中に様々な生物が暮らす状況が実現される中で、もともと縁もゆかりもなかった別々の生き物が一緒に暮らす術を、おそらくは双方が歩み寄る形で実現した過程があったに違いないということだ。
 互いに「相容(あいい)れる」という共生関係のありように人は魅かれる。そのことが「自然との共生」という言葉の耳ざわりの良さにつながっているのではなかろうか。

・写真説明
アンパルに生息する様々な共生生物。1・フタバオサガニの脚にくっついている小さな点はオサガニヤドリガイという二枚貝の一種。2・スジホシムシに付く白い二枚貝ユンタクシジミは、数匹がまとまっているようすからその名がつけられた。3・昨年日本に生息することが初めて報告された二枚貝ホシムシアケボノガイ。4・ハサミカクレガニはホシムシやユムシなどの巣穴に共生する。5・ヒノマルズキン(矢印)はヒモイカリナマコの体表に暮らす特異な二枚貝。6・スジホシムシの後端に付くのがフィリピンハナビラガイ(矢印)。7・ナタマメケボリガイは、8のスジユムシ(左)やタテジマユムシ(右)の巣穴に生息する。

小菅 丈治

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