またも八重山のキセルである。おどろおどろしいタイトルだが、かつての東アジアでは老若男女は勿論のこと、死者も煙草を吸ったようだ。江戸の墓からはしばしばキセルが出土している。
沖縄も、そして八重山も例外ではない。写真は与那国島・嘉田地区古墓群で出土したキセルである。金属製の、いかにもキセルらしいキセルである。煙草をつめて火をつける側の「雁首」と、口にくわえる側の「吸口」の二つのパーツに分かれている。雁首と吸口の間は中空の管「羅宇」でつなぐ。羅宇には磨いた竹がよく用いられたようだが、腐って残らないらしく、発掘調査で見つかるキセルは雁首と吸口だけになっていることが多い。
こうした金属製キセルは沖縄県内各地の遺跡から出土しているが、沖縄で作られたものではないらしい。「村田」、「金龍」、「太田號」、「ひらのや」といった銘の入ったものがあり、どうやら日本から運んできたもののようだ。外国産のキセルは、それなりに高価な品だったのだろう。石や焼物のキセルと比べ、遺跡から出土する量は少ない。
例外が墓である。墓から出土するキセルの六割近くが金属製なのである。この頻度はちょっと異常だ。しかも、写真を見てほしいのだが、墓から出土するキセルは傷もなく、煤けてもいないものが目立っている。どうやら故人の遺品ではなく、新品らしい。あの世でよいものを、ということだろうか。かつての沖縄では、輸入物の高価なキセルの多くを支社に手向けていたようだ。