刃は怖いけれど

至福の顔剃り

急に思い立って床屋に行って来ました。美容院ではなく、理容室です。美容院には出来なくて床屋には出来る事、顔剃りのためです。私の床屋デビューは、ある時結婚披露宴で琉球舞踊を踊ることになり、何十年も伸び放題の襟足をと思って入ったのが最初でした。
 ところで、私は刃物の切っ先を見ると特別な感覚が体を走る、尖端恐怖症とも言うべきたちなのですが、意を決して床屋のドアを押したのは最初だけ。特殊技能とも呼ぶべき床屋さんの巧みな手業に、すっかり魅了されてしまいました。眼を閉じている顔にあてがわれるカミソリの感触は、まるで羽毛で撫でられているようです。とてもあのゾッとするような刃物の仕業とは思えません。床屋さんの技術の巧みさに、感嘆の言葉を伝えずにはいられませんでした。
 それにしても床屋さんの顔剃りって、眉毛は整えてくれるし、クリームをつけてマッサージはしてくれるし、何やら器具を使って肌をぷち、ぷちと吸引してくれるし、蒸しタオルをあてがい、ふわり、ふわりと包んでくれるし、気持ちのいいことといったらありません。月に一度行ってもいいゾと思うのですが、いよいよとなっての、結局は年に二回程です。
 二千円で十円おつりがくる料金ですが、石垣島ではどうなのでしょうか。施術(?)の間、何回も蒸しタオルを使ってくれるので先日は数えてみたら、最後の冷タオルを含め何と六枚でした。洗濯大変だろうな、と思ったことです。
 四十五分程の至福を堪能して店を後にしながら、一皮剥けて「あっぱりしゃん」になった我がこのかんばせを、誰にも会わずにまっすぐ帰宅するのがもったいない気分でした。
○我にタヴーは殺傷場面、切り傷の話 増してや君のひげ剃る刃は

大川 安子

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