ソーラ(旧盆)

ソーラ(旧盆)

旧盆は、旧暦七月一三日から一六日の未明にわたって、各家で精霊(先祖)を祀る行事である。精霊を迎え、ご馳走し、送るもてなしは、この世とあの世の饗宴をみる思いがする。

 さて、小浜島では旧七日を特にナンガソーラと称して盆行事の開始を告げる。この日は、墓参りをして掃除をし、盆の準備をすると同時に、南北両集落に分かれ、盆の芸能の練習が始められる。競うように笛の練習に励む、十代の若者たちの姿は、笛の名手を輩出する小浜島ならではの光景であろう。

 これらの芸能は、盆の三日間、ニムチャーニンズ(念仏者人数)が、位牌のある家を一軒一軒供養してまわるなかで演じる、歌や踊りが中心。とりわけ、島には多くの念仏歌謡が伝わっていることが特筆できる。

 三日目の夜半、鐘の合図が島に響き、各家庭で祖霊を送る。仏壇いっぱいに飾った供え物をさげ、それを庭の敷物のうえに移して並べ、恭しく行われる。その後は、ドゥハダニンガイ(胴肌願い)で、現世に生きる者の健康を、夜を徹して祈願する。そのとき、頭に着けた鉢巻の色が、白から赤へ変わるのも象徴的だ。笛を吹く若者を先頭にして、太鼓・鉦鼓を打ち鳴らしながらつづく一行は七〇歳以下の人の家を、年齢の高い順番に訪れる。そうするうちに、やがて夜が明けてくる。

 一六日の早朝、島の中央ナカミツィ(中道)での儀礼は圧巻だ。これまで、それぞれの集落を練り歩く両村のニムチャーが、はじめて一堂に会する場面だ。三線・笛・太鼓・鉦でミチピキ(道中)の音曲を囃す。花笠を被り着飾って笛を吹く青年に導かれ、女装した若者が、南北から気勢をあげつつ寄り合い、両者が合流するや、円陣を巻きながら踊る。踊りは北村(ルビ:キタムラ)の「ジルク」、南村(ルビ:ハイノムラ)の「ミンマンブンドゥル」と華々しく展開する。後者の踊りには、経文に耳を傾ける仕草だという、独特の所作が入る。

 加賀屋真梨氏は、この場を次のように考察している。「南北両部落の中年男性の代表者たちは若者とは異なり対面して歌を歌い太鼓を叩く。この場で『やまとぅぬやまさじ』という経文歌が歌われるとき、南部落と北部落では歌の音階が異なるため、両部落の中年男性たちは相手にのせられないようそれぞれ負けじと声を張り上げ、その場はあたかも歌合戦の場となる。(中略)その対抗心が各祭祀集団の一致団結をもたらすことが象徴的に表現されているのである」。

 このあと総勢は着座し、双方の部落会長からの挨拶がある。挨拶が終わるやいなや、音曲が一斉に奏でられ、颯爽と南北へ分かれていく様も見事というほかない。一六日の午後からもドゥハダニンガイがある。その間も音楽の絶えることはない。その後も獅子舞やイタシキバライなどの日程を経て、一連の盆行事が終わる。

飯田 泰彦

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