定着した安心米

定着した安心米

西表の風景と言えば水田風景が浮かぶ。昔は水牛が田んぼにいて、田植えの季節になるとユイマールでたくさんの人たちが田植えをしていた風景がしっかりと記憶に残っている。今では機械化が進み、ユイマールのような形態は見られなくなったが、「500年以上になるという稲作は島で生きる基本である」と人々は口にする。

 そんな機械化・合理主義が進む状況の中で、完全無農薬(化学肥料を使わず・除草剤も使わない)の西表安心米を作っている那良伊孫一さんがいる。1989年に西表安心米生産組合を発足しアイガモ農法による完全無農薬栽培米をゆうパックにより全国の消費者へ直接販売を行っている。

 「農薬や除草剤を使った方がアイガモを使うよりコスト的に安く生産できるけど、僕たちがやりたい米作りは西表の自然に負担をかけない方法、そうすることが安全でおいしいお米を作ることにつながるし、買ってくれるお客さんもそれを望んでいる」

 那良伊さんはこの10年以上も続けてきたこの農法に自信と確信を持っている。1989年当時は米の自由化はされてなく、新しくできたばかりの「特別栽培米制度」にのせて沖縄で第1号の特別栽培米の認可を受けた。手続きは大変なもので様々なトラブルもあったが消費者に支えられて乗り越えることができた。

 那良伊さんは安心米の最大の味方であるアイガモを購入するとき多めに注文をするという。飼育が難しく環境に適応できなくて死んでしまうのかと思ったら、田んぼの草を食べてくれるアイガモは、ヤマネコに食べられるという。

 「ヤマネコ印の登録商標を使わせてもらっているし、ヤマネコの縄張りに僕たちも入り込んでいるし、お互いいいバランスがとれている。ヤマネコとはこれからも長い付き合いだから」

 昔から農耕を通して自然と関わりながらそして畏敬の念を持ってきた西表の人々。那良伊さんたちもその先人たちの姿を受け継いでいる。

 西表の伝統文化は稲作文化であり、稲作儀礼としてたくさんの歌や踊りの芸能が生まれてきた。西表島の豊かな自然を大切にした農業の未来を考えるとき、時代の流れに逆行しているかもしれない那良伊さんたちのやり方は、これからの時代を切り開いていく大きなヒントになると思う。ヤマネコとアイガモと人間が西表の自然の中でうまくバランスをとったかたちがある。

やいま編集部

この記事をシェアする