ナネーズ(桑の実)

ナネーズ(桑の実)

石垣市字登野城の富川家に立つシマグワの大木。幹に朽ちたところがあり、今は実をつけないそうだ。樹齢推定200年。実が熟すのを待って、どれくらいの子どもたちがこの木を見上げ、どんな鳥たちが枝に訪れたのだろう。
蚕や家畜のえさとなる桑は、どの家にも植えられ、数本の大木が並ぶ家も多かった。若芽は汁にうかべたり、炒め物にして食べ、大きな葉は取り皿になり、おむすびも包んだ。下げ薬ともいわれ、葉を煎じて飲んだり、葉や幹を伝った雨水をためて湯茶に用いたそうだ。虫歯には塩もみした葉をつめたという。幹は粘りのある堅い木材であり、三味線の竿や器、牛や馬の面木(おもぎ)に使われる。幹や根は染料にもなる。

≪石の実 水の実≫
そして実はおやつであった。シマグワの実には2種類ある。熟すと黒くなる、ひきしまった感じの実と、薄い赤紫に完熟する、大きめのプックリした実である。石垣ではそれをイシナネーズ、ミズナネーズと呼んだ。今、見かけることの少ないミズナネーズの方が人気があった。木によじ登って実を取る子どもたちに、「食べ過ぎるとアメーバになるよ」と親はよく注意したそうだ。アメーバ・・・クワの実に来るハエの雑菌でおなかを壊すという意味らしい。しかし、ひもじい子どもたちにそんな言葉は届かない。鳥と一緒になって、手も口も紫にして食べ尽くした。

≪なつかしい味 新しい味≫
ミズナネーズからは水飴を作ることができる。不思議なことにイシナネーズでは飴状にならない。40年くらい前の子どもたちが作った水飴の味は、甘酸っぱくて香ばしい。現在では、ジャムや果実酒にして実りを楽しむ人も多い。西表島の喫茶店「唐変木」には、桑の実のジュース・かき氷・レアチーズケーキがある。庭先の桑の木は、フィリピン産で、大きめの酸味のある実がつく。ジュースのグラスの底にはコロコロとそのままの実も入っていて、人気があるそうだ。
おいしい実のなる木を見つけたら、年に数回、収穫の季節がやって来る。

石川 恭子

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