小橋川仁王さんの抹茶茶碗

小橋川仁王さんの抹茶茶碗

私がこのお宝に出会ったのは、92年のことでした。
 石垣島の中心街にあるお土産品店”S“で商品を見ていた時、一番奥のウィンドウケースの中にこのお宝があり、ぜひ手に触れてみたくなって女主人にお願いしました。
 最初に手にしたのが写真右の「竹文茶」。
 小振りで品が良く、手のひらにすっぽりと納まる感触が一遍で好きになりました。
 もちろん、写真左の赤絵のものも見せてもらいました。
 それから何度もこの店に通い、この抹茶茶碗は小橋川仁王さんの手によるものであることがわかりました。
 私はそれまで沖縄の陶工では金城次郎さんしか知らず、小橋川仁王さんの名を初めて知ることになったのです。
 女主人の話によれば、「もう少し長生きしておられたら、早くに人間国宝になっていたかもしれない方だそうですよ」ということでした。
 この2客の箱書きを見ますと、右側は「壺屋焼 竹文茶 仁王」とあり、左側は「壺屋焼 茶 仁王」とあります。左側の茶碗にはいわゆる”銘“がありませんが、沖縄独特の濃い赤絵が入っております(何の文様かは分かりません)。
 私は、これまで30年余り表千家茶道を学んできましたが、この間数多くの抹茶茶碗を自分の目で見、自分の手で触れてきました。
 しかし、一度も沖縄の抹茶茶碗を経験したことはありませんでした。
 そんな私が、小橋川仁王さんの作品に魅入られて窯元も作者も知らないままこれを求め、自分のお宝としました。
 そして願わくば、八重山の多くの人たちに小橋川仁王さんとその作品を好きになってもらいたいと思っています。

【小橋川仁王(こばしがわ・におう)】
 壺屋の上焼きの陶工。明治10年に真和志間切牧志(現在の那覇市壺屋)に生まれる。代々、釉薬の調合に定評があり、仁王もその評価が高かった。仁王の作品とつたえられるユーチュー(酒茶家)が2点県立博物館に所蔵されているが、形がキリッとして端正なところに特徴があり、成形技術にもすぐれていたことがわかる。昭和27年没。(沖縄大百科事典より)

星 美博

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