昔、ある男が、深い山に入って木を切り出そうと出かけていきました。すると、深い繁みの中から、うんうんと苦しそうな声が聞こえてきました。男は、自分の他にも誰かが山に入って、急な腹痛でもおこしたか、大けがでもして苦しんでいるではと思ってその繁みにふみ込んでいきました。
そこで目にしたのは、大きな龍が太いつたにからまり、身動きがとれなくなっているところでした。龍は、男を見ると、「このつたを切ってくれ、ワシの力でもどうしても切れぬ。たのむからお前の持っているそのオノで、このつたを切ってくれ」と頼みました。男はとても怖かったのですが、もう夢中でオノをふるい、龍にからまっている太いつたを切ってやりました。
自由になった龍は、「このことは、他の人間には絶対話すな。そのかわり、お前をこの世で一番の名医にしてやろう」というと、たちまち、黒いつむじ風をおこして、空に舞いあがっていきました。龍がいままでいたところには、大きな壺が残されていました。
そして、天の高いところから龍の声がして「その壺の中味は、万病にきく薬だ。それさえあれば、どんな病も治せる。その薬で世の中の人々を助けてやるがいい」といいました。
こうして男は、たちまちどんな病も治せるという名医になり、やがて、王様にかかえられ、ますますたくさんの人たちを助けたということです。